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- 不妊治療・がん・放デイを経て見つけた「新しい子育てのかたち」──卵巣がんサバイバー恵さん
幼稚園の先生をしていたほど昔から子どもが好きで、結婚したら子どもを産んで、育てて…とあたりまえのように描いていた羽賀恵さん(以下、恵さん)。不妊治療をしている28歳の時に、卵巣がんが見つかりました。片側の卵巣を摘出後、抗がん剤治療に専念した1年間は生き方を見直し「ライフプランをアップデート」できた貴重な時間になったと語ります。恵さんは現在、kurashi合同会社の代表として放課後等デイサービスの運用をしています。不妊治療、卵巣がんの体験、放課後等デイサービス運営を経て見えた新しい「子育て」のかたちについてお伺いしました。
目次
結婚して子どもを産んで「子育てしたいモード全開」のときに見つかった、卵巣がんステージⅡa期
―――結婚をして、不妊治療中に卵巣がんが見つかったとお聞きしましたが、経緯を教えてください。
保育科の短大を卒業してからずっと幼稚園の先生をしていました。子どもが大好きなのでまさに天職でしたが、転勤族の夫との結婚を機に仕事を辞めていろいろな地方に住んでいました。
当時、20代中盤で、地方は都内よりも子どものいる家庭が多く、子どもがいることがあたりまえな社会。その影響もあって、当時は「子育てしたいモード全開」でした。想像していたライフプランは結婚・出産・子育て…でした。
卵巣がんが見つかったきっかけは腹痛です。
ただの腹痛ではなく救急車で搬送されるほどの痛みでした。1回目は緊急搬送後に痛み止めをもらって終わり。その1年後、同じような痛みに襲われ、2回目の緊急搬送。嘔吐がある程の痛みでした。
当時、不妊治療中でチョコレート嚢胞(のうほう)が見つかっていたこともあって、この腹痛の原因は子宮や卵巣辺りだと感じ、病院で検査入院しました。検査結果で医師から「黒い影が見えます。」と言われました。「本当にドラマみたいにこんな言われ方するんだ…」と思いました。
医師の見解は「卵巣に影があり、切除して病理検査しないとわからない」とのこと。当時、不妊治療をしていたこともあり、私のメンタルを考慮して左のみ摘出することになりました。
手術後、1週間程で病理の検査結果が出て、退院する日に夫と一緒に個室に案内されました。個室の机の上に卵巣がんの本があり、がんであることを悟りました。ステージⅡa期でした。29歳の誕生日の1週間前だったのでしっかりと覚えています。それから抗がん剤治療を半年以上続けました。
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病院側の配慮は逆効果だった。子どもの素直な反応に笑顔「やっぱり子どもに関わりたい」
――抗がん剤治療中で印象に残っていることを教えてください。
治療中は、髪の毛、まつげ、体中のいろんな毛がなくなりました。むくみもあって、見た目はボロボロでした。でも、個人的にはあまり見た目の変化は気にしていませんでした。
私の通院先の病院では、抗がん剤治療は、奥まった部屋、トイレや会計もほかの患者さんとは別にできるなど、ほかの人の目を気にしなくていいような「大人の配慮」がありました。これに対して、「頑張っているのに!病気で禿げたら社会に出てはいけないの?」と疑問がありました。ナイーブに扱われることがとても悲しかったのです。
私は治療でボロボロになるから見た目を気にせず、病院へ行って帰るだけと割り切っていましたが、ほかの患者さんはウィッグや外見ケアをきちんとして来ていたので、病院の配慮はまちがっているわけではない。配慮って難しいですよね。
その「大人の配慮」の真逆が子どもの反応でした。姪っ子がシールを貼る着せ替え人形で似顔絵を作ってくれたときに、私は髪の毛がありませんでした(笑)
(下記写真のめえめが私です)
私は本当におもしろく爆笑、周りは「めぐみちゃんに髪の毛つけてあげないの?」と言っていたものの笑顔、未だにそのときの写真を見ては笑っています。
他にも「がんになった」と伝えると「鳥(雁[がん])になったの?」と小学生に聞かれたことも。ここでも、子どもの反応はおもしろい!と、子どもとの関わりは私の人生で必要不可欠だと思いました。
自分のやりたいことを整理整頓できた1年間。ライフプランと「子育て」の認識をアップデート
―――子ども好きな恵さんが、不妊治療中に卵巣がんが見つかったとお聞きすると、精神的に辛かったのではないかと思うのですが、何かマインドチェンジはしたのですか?
がん治療中に不妊治療をストップしてホッとした気持ちが正直ありました。
私の場合は、期間が決まっていた抗がん剤治療よりも、ゴールは誰もわからない、わからないから未来の計画もできない不妊治療の方がメンタル的に辛く感じました。抗がん剤治療は身体の負担が大きいですが、治療期間がわかっていたし、人生のお休み期間として専念しようと決めていたのでメンタルは安定していました。ずっとしんどいわけではなく1か月のうち2週間は寝たきり、2週間は元気で食欲・外出欲にみなぎっていました。
治療に専念する間、自分の生き方、やりたいこと、何が好きなのか見つめる時間にしようという気持ちもあったので、それも支えになっていました。
「産む」ことでしか子育てができないのか?社会と一緒に子どもを育てることは「子育て」ではないのか?
自問自答すると、今まで当たり前だと思っていたことが違って見えてきました。ライフプランをアップデートできたことが、今の放課後等デイサービスにつながっています。
障がいをもつ子どもへの配慮は、社会全体のためになる、新しい「子育て」のかたち
―――放課後等デイサービスは障がいを持つ子どものための児童福祉サービスの1つとお伺いしています。kidsベースでやっている活動をインスタグラムの写真だけ拝見する限りでは、障がいのある子どもたちとはわかりませんでした。
放課後等デイサービス(以下、放デイ)は、幼稚園、大学を除く学校に通っている障がい児が利用できるサービスで、対象の障害は身体障害、知的障害、精神障害、発達障害です。児童相談所や保健センター、医師などにより療育の必要性が認められた子どもも対象で、障害者手帳の有無は問いません。皆さんが想像する「障がい者」とは少し異なるかもしれません。
各施設で特色がありますが、kidsベースでは、アクティブな遊びも、アートも、電車での野外活動もしています。kidsベースでは、障害の度合いは関係なく、外出もしますし、地域やつながりから様々な講師を招いて活動をしています。
この子たちは電車を利用する社会に生きるし、たくさんの方と接していろいろな経験やつながり・発見ができる場になるようにと思っています。
社会のルールを伝え、守れるように工夫しますが、それでも、障害の特性でもし周りに迷惑をかけたら、私たち大人が謝ればいいんです。その、謝る姿を見せれば、そこで子ども達は「謝る」を学びます。
私は、「障がいのある」というのは、暮らしの中で「困っていることのある」という風に捉えることが多いです。障がいのある子への配慮は、健常の子にも役立つと考えています。
例えば、授業中、「教科書の何ページ」と言われたのを聞き逃して困っている“障がいのある子”がいるとします。その困っていることを解決する為、工夫するのであれば、黒板のどこかに「〇〇ページ」と書いておくと、とってもわかりやすいです。でもこれって本当に障がいのある子だけが助かるんでしょうか。健常の子も書いてあれば、わかりやすいし助かるはずです。
最終的には、障がいのありなしに関わらず、子どもみんながフラットに配慮が当たり前で楽しめる環境を作りたいと思っています。その為にも、地域に開かれた事業所になるようにと、ボランティアさんの受け入れや近所の方の相談支援なども行なっています!kidsベースには幼稚園教諭時代の教え子たちも集ってくれます。
私たちの子ども時代と今とでは「子育て」事情が異なります。少子化、共働きなど社会が変わり、家庭だけで「子育て」をするには難しい時代になったとも言えます。
がんを経て、自分の子どもを産んで育てる当たり前ではなく、日々kidsベースで子どもたちに関わり、1人や2人だけではなく…何十人の成長を見守っています!「子育て」の形はたくさんある!
今後も子どもの安心できる場所や環境づくりのために地域社会と共に育っていきます。
―――今後はどのようなことを目指しますか?
kidsベースを地域から愛され、子どもにとっても親にとっても安心できるサードプレイス的な役割をもつ場所にしていきたいです。不登校の子の問合せも増えていますし、親御さんからの仕事と育児の両立についての相談も受けています。放デイだけにこだわらず「子どもに関わる」仕事を全力でやっていきたいです。
また、卵巣がんAYA世代のサバイバーでもあるので、この経験も誰かの役に立つなら伝えていきたいと思っています。発信するすべてのことが、結果、子ども達に還元できるように役立てたらうれしいですね。
インタビュー・文 大井美深(ティーペック株式会社 広報)
<編集部より>
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インタビュイープロフィール
羽賀恵(kurashi合同会社 代表)
幼稚園教諭を経て、子育て世代になった20代後半に卵巣がん・抗がん剤治療を経験。
地域のお子さんや福祉に携わる職員に、幸せな居場所や社会を作りたいと思い、kurashi合同会社を設立。
品川区大井にて放課後等デイサービスkidsベースを運営。
大きな可能性を秘めた子ども達と過ごす中で、学びを深め、社会に貢献したいと奮闘中。
毎日を楽しく、大切に。
参考
- 放課後等デイサービスkidsベース
https://www.kidsbase.fun/
※当記事は、2024年4月に作成されたものです。
※当記事内のインタビューは、2024年2月に行われたものです。
※当記事は個人の体験談に基づくものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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