ライフステージと健康

出産の費用が心配?妊娠・出産で受け取れる給付、補助を知っておこう

公開日:2024.01.25

妊娠・出産は、とても喜ばしいことですが、正常な妊娠・出産では健康保険が適用されず、原則として出産費用は自己負担になります。そのため、費用のことが心配になってしまうこともあるでしょう。しかし、さまざまな給付金や補助金などが用意されており、妊娠・出産に伴う経済的負担をサポートしてもらえます。今回は妊娠・出産時の代表的な給付金や補助金についてご紹介します。

1.正常な妊娠・出産は健康保険が使えない

健康保険が使えるのは、病気やけがで治療が必要な場合と決められており、正常な妊娠・出産は病気とはいえないことから健康保険は適用されません。妊婦健診も含めて正常な妊娠・出産では、費用は原則自己負担になることを知っておきましょう。けれども、その代わりに加入する健康保険から出産育児一時金が給付されます。

それでは、出産費用はどのくらいかかるのでしょうか。

厚生労働省「出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果等について」によると、令和2年度の公的病院の平均出産費用は45.2万円、全施設の平均出産費用は46.7万円でした。公的病院は、私的病院や診療所よりも平均出産費用が低い傾向にあります。都道府県別の公的病院の出産費用の平均を見ると、最も高いのは東京都の553,021円、最も低いのは佐賀県の351,774円でした。妊娠・出産の状態によっても異なるため費用について一概にはいえませんが、目安としてはこのぐらいかかるといえるでしょう。出産費用は年間平均1%程度で増加しているとされていることから、現在はもう少し高くなっていると考えられます。

出産育児一時金については、以前は出産1児につき42万円でしたが、令和5年4月1日以降の出産から1児につき50万円(産科医療補償制度*対象外の場合は48.8万円)に引き上げられています。

*産科医療補償制度は、出産時に何らかの理由で重度脳性まひとなってしまった赤ちゃんとその家族の経済的な負担を補償するための制度。対象となった場合は総額3,000万円が給付される。

2.さまざまな給付金・補助金

出産には高額な費用がかかりますが、前述の出産育児一時金をはじめ、健康保険や自治体などから手厚い給付金・補助金を受けられるため、ある程度はそれで費用を賄うことができます。

正常な妊娠・出産と異なり、医学的な対応が必要な切迫早産(早産の恐れがある状態)や妊娠・出産のさまざまな合併症に対する治療や帝王切開については健康保険が適用されるため、負担は医療費の自己負担分だけで済みます。合併症に対する治療で入院する場合など医療費が高額になる場合は、高額療養費も適用されます。

出産前後に受けられる給付金・補助

〇自治体からの妊婦健診の費用助成

妊娠中は定期的に妊婦健診を受けることになりますが、妊婦健診の費用については住んでいる自治体から費用の一部が助成されます。一般的には、自治体に妊娠を届け出て「母子健康手帳」の交付を受けると妊婦健診に対する助成券が交付され、それを医療機関の窓口で使用することで負担額が軽減されます。自治体ごとに助成券の枚数や金額等が異なるので、お住まいの自治体で確認しましょう。

助成券は、お住まいの自治体の医療機関でしか使えないため、里帰り出産の場合は後から精算することになります。手続きなどを確認しておきましょう。

〇出産・子育て応援交付金

令和5年1月から、少子化対策の一貫として開始された事業による交付金です。自治体によっては別の名称で行われている場合があります(東京都は「赤ちゃんファースト」など)。子育て関連用品等に使用できるクーポン券などが妊娠を届け出た際に5万円相当、出生を届け出た際に5万円相当支給されます。保健師・助産師による面談を受けることが条件となっている自治体が多いので確認しましょう。

自治体によって仕組みが異なり、現金給付を行っている場合もあります。妊娠を届け出る際に手続きや利用方法などをお住まいの自治体で確認してください。

出産育児一時金 (家族出産育児一時金)

健康保険の被保険者や被扶養者が出産したときには、出産費用の負担を軽減するため、出産育児一時金が支給されます。妊娠4ヵ月(85日)以上の出産の場合は死産、流産、妊娠中絶などでも支給されます。

被保険者が出産したときは出産育児一時金、被扶養者が出産したときは家族出産育児一時金という名称ですが、支給額は原則同じです。

【支給額】

妊娠4ヵ月(85日)を経過した場合に、出産1児につき50万円(産科医療補償制度の対象外の出産の場合は48.8万円)が支給されます。

※加入する健康保険組合などによっては、法律で定められた上記の金額に上乗せした給付が受けられる場合があります。

【手続き】

●「直接支払制度」を利用する場合

直接支払制度を利用すると、出産育児一時金が健康保険から直接医療機関に支払われ、窓口では出産育児一時金と出産費用の差額を支払うだけで済みます。出産する医療機関に出産育児一時金を利用する旨の申し出を行えばよいため、加入する健康保険への手続きは不要です。

●「受取代理制度」を利用する場合

直接支払制度が利用できない小規模な助産施設などでは受取代理制度が利用できます。出産前に、専用の支給申請書に記入し、出産する医療機関から「受取代理人記載欄」に署名・捺印を受けて、加入する健康保険へ提出します。窓口での支払いは出産育児一時金と出産費用の差額だけで済みます。

直接支払制度と受取代理制度の違い
出産育児一時金が医療機関に直接支払われ、それを超える費用のみ窓口で支払えばよいという点ではどちらも同じです。ただし、手続きにあたって直接支払制度が医療機関に申し出るだけで済むのに対して、受取代理制度では被保険者が加入する健康保険にも手続きが必要となるため若干手間がかかります。
どちらを利用した場合も、出産育児一時金より出産費用が少ない場合は、加入する健康保険に申請して差額の給付を受けます。 

●出産後に本人が受けとる場合

出産育児一時金は、出産後に全額を受け取ることもできます。医師などの出産の証明を受けて、加入する健康保険へ請求手続きを行ってください。

〇出産手当金

会社員で勤務先の健康保険に被保険者として加入している場合は、産休中は出産手当金が支給されます。自営業などで国民健康保険に加入している場合や被扶養者の場合は支給されません。一定の条件を満たした場合は退職後も支給されますので、加入する健康保険に確認しましょう。

【支給額】

欠勤1日につき、「直近の継続した12ヵ月間の標準報酬月額の平均の30分の1」の3分の2に相当する額です。

【支給期間】

産前42日(多胎妊娠の場合は98日)から産後56日まで。出産予定日より遅れて出産した場合は、その分も支給されます。

【手続き】

「出産手当金支給申請書」に、事業主と医師などの証明を受けて、加入する健康保険に提出します。

〇傷病手当金

傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務と関係しない病気やけがの療養のために仕事に就くことができず、給与が受けられないときに支給されます。つわりがひどい場合や、切迫早産、流産、妊娠高血圧症候群など、さまざまな理由で妊娠中に働けない場合は、業務と関係しないものですから、傷病手当金の支給対象です。自営業などで国民健康保険に加入している場合や被扶養者の場合は支給されません。

産休中は「出産手当金」が優先されますが、出産手当金より傷病手当金の額が多い場合は差額が支給されます。

【支給額】

欠勤1日につき、「直近の継続した12ヵ月間の標準報酬月額の平均の30分の1」の3分の2に相当する額です。

【支給期間】

連続する3日間を含み4日以上仕事に就けない場合に、4日目から通算1年6ヵ月まで支給されます。

【手続き】

「傷病手当金支給申請書」に、事業主と医師などの証明を受けて、加入する健康保険に提出します。

〇高額療養費

正常な妊娠・出産と異なり治療が必要な場合は、健康保険で治療が受けられます。健康保険を利用しても医療費が高額になる場合は、1ヵ月単位で医療費の自己負担に上限が設けられており、超えた分は高額療養費として払い戻されます。自己負担限度額は年齢や収入によって異なります。払い戻しは加入する健康保険によって申請が必要な場合と自動的に振り込まれる場合がありますので、確認しておきましょう。

マイナンバーカードで受診して医療機関に高額療養費の限度額情報を提供するか、事前に加入する健康保険に申請して限度額適用認定証の交付を受けておくと、窓口の支払い時点で支払いが限度額までで済みます。

出産後に受けられる給付金・補助

〇育児休業給付金

育児休業中は通常、勤務先からは給料は支払われません。しかし、その分、条件を満たしていれば雇用保険から育児休業給付金が支給されます。育児休業給付金は雇用保険の被保険者が1歳未満の子を養育する目的で育児休業を取得した際に受け取れる給付金です。男性も育休を取得する場合は給付が受けられます。

【支給額】

育児休業180日までは1日につき休業開始時賃金日額の67%、181日目以降は50%です。

〇児童手当

児童手当は、中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育している人が受け取れる給付金です。申請の翌月から支給されるので、できるだけ早く申請しましょう。申請が遅れた場合には遅れた分は支給されません。このため、出生届と一緒に申請するとスムーズです。現住所の市区町村に申請するので、里帰り出産などの場合は注意しましょう。

自治体から支給されるので、引っ越したら転入先の自治体で手続きを行う必要があります。

【支給額】

児童の年齢児童手当の額(1人あたり月額)
3歳未満  一律15,000円
3歳以上 小学校修了前10,000円 (第3子以降は15,000円)
中学生 一律10,000円
※児童を養育している方の所得が一定基準以上になると児童手当は支給されません。

〇児童扶養手当

18歳までの子どもがいる、ひとり親家庭などの親に支給されます(18歳の誕生日後の最初の3月31日まで支給。一定以上の障害がある場合は20歳未満)。金額は所得や子どもの数に応じて変わります。自治体に申請する必要があります。

例えば東京都では加えて「児童育成手当」を実施しています。このように自治体によってひとり親家庭に対してさまざまな支援を実施していますので、お住まいの自治体に確認しましょう。

※請求者および請求者と生計を同じくする扶養義務者などの前年の所得が限度額以上のときは、手当の全部または一部が支給停止となります。

3.社会保険料の免除、医療費控除

直接的に給付が行われるわけではありませんが、社会保険料の免除、医療費控除が受けられるため、経済的な負担の軽減につながります。

○産休・育休中の社会保険料の免除

会社で働いている場合は、産休・育休中は加入している厚生年金、健康保険の保険料が免除されます。自営業等の場合は、産前産後期間の国民年金、国民健康保険の保険料が免除になります。

○医療費控除

妊娠・出産費用は医療費控除の対象になります。確定申告することで所得が減り、納めすぎていた税金が還付されます。計算する際は出産育児一時金、高額療養費などで支給された分は差し引いて計算します。家族内で所得が最も高い人が申告すると有利です。

何が医療費控除の対象となる費用なのかは、国税庁のWEBサイトに掲載されていますので、確認して漏れがないように申告しましょう。通院にかかった公共交通機関の交通費なども対象となります。申告時に領収書を提出する必要はありませんが、税務署からの照会に備えて5年間は領収書を保管しておく必要があります。

4.まとめ

妊娠・出産の負担は、身体的にも経済的にも決して小さいものではありません。しかし、赤ちゃんを迎えるためにさまざまな支援策が用意されています。医療機関での出産費用の多くを賄える出産育児一時金が支給されるのは、心強い支援といえます。

出産・育児のための補助金事業は、自治体が主体となって行われるものが多く、自治体によって独自の事業が行われていることも多いので、お住いの自治体の広報誌やWEBサイトを確認しておきましょう。また、出産後は産後ケア、保育、予防接種など、自治体の事業を利用する機会が増えることになります。さまざまな事業が行われていますので、併せてチェックしておくのがお勧めです。

原稿・社会保険研究所Copyright

参考

※当記事は、2024年1月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

メッセージを送る

いただいたコメントはつながるティーペック事務局に送信されます。 サイトに公開はされません。 コメントには返信できませんのでご了承ください。

他にもこんな記事があります。

気になるワードで記事を探す

おすすめタグで探す