「ステキ女性の人生から学ぶ!からだのこと」女性の仕事、からだ、健康に関する困りごとなどを様々な先輩にインタビューし、若い女性たちへ、体験談とアドバイス、さらに企業からの良い情報などもお届けします。今回は、モデルでNPO法人C-ribbons代表の藤森香衣さんです。11歳の頃からモデルとして活動している藤森香衣さん。出演するCM本数は70本を越えており、若いころから忙しい毎日を送っていたことがわかります。その後、36歳で乳がん罹患、ステージ0の早期発見でしたが、右乳房全摘・乳房再建を体験しました。乳がんの告知後、ブログで病気を公表し、手術後もすぐにモデルの仕事を再開しました。
目次
「ゴクミに会える?」で決まった人生。“大人の人たちと一つの物を作っていく楽しさ”を知った子ども時代
――職業を選んだ理由と、お仕事への思いを教えていただけますか?
近所にハーフのモデルの人が住んでいて、私の母と“ママ友”でした。その方の所属事務所が新たに「子どもモデルの部署を作る」ということで、スカウトされました。 その時代、子役というのは劇団のお子さんたちがやっていて、子どもモデルは少なかったんです。ただ、後藤久美子さん、宮沢りえさんが活躍していて急に子どものモデルというのが注目され始めていて、私も後藤久美子さんのドラマを見ていたので、スカウトされたとき、「モデルになったら、ゴクミに会える!?」と母に質問し、「まあ、会えないこともないんじゃない?」と言う、母の曖昧な返事を信じ、やりたい!と思ったのが始まりです。
ただ、うちは父がCM制作会社に勤めていて業界側の人間だったため、最初はあまり良い返事ではありませんでした。最終的に「学校を優先して、仕事で欠席はしない。放課後か休みの日に仕事をすること」というルールを家族で決め、所属することになりました。
放課後のクラブ活動のように始まったモデル業でしたが、1つ、2つと仕事が決まり、3つ目の仕事で「後藤久美子さんと共演する」という奇跡が起きました。
CM撮影で中学校の設定だったので、私は何人もいる“同級生”の一人。まだ三回目の仕事で現場にも慣れておらず、しかも一人だけ小学生…緊張で、カメラの向きも何も分からず、オンエアを見たらほとんど顔が映っていませんでした(笑)けれど、後藤久美子さんに会うという願いが叶ったこと、そして現場で“大人の人たちと1つの物を作っていく楽しさ”を知り、何日も感動していたのを覚えています。
「自分が出ているものを見る気分は?」とよく聞かれますが、出来上がったものを見るのは未だに照れくさいです。どちらかというと、私は作っている最中の現場の空気とエネルギーが好きで、この仕事を続けているんだと思います。
“商品”としての自分。小学生でも体調管理は自己責任
撮影は、その季節より早い時期に行うため、例えば真夏に冬のセーターを着たり、冬に野外で春夏物の服を着て、笑顔で撮影をしたりします。
当時は今と違い、全てフィルム撮影なので、修正がほとんどできません。たとえ小学生であっても、「日焼けは絶対ダメ」と言われていましたが、日焼けをしやすかった私は、夏に行う「冬の撮影」のときに真っ黒な肌だったため、いつもマネージャーさんに叱られていました。
昔気質のマネージャーさんからは「モデルと名乗っているからには、いつも同じ状態でいないといけない。体ぜんぶで商品なのよ!」と、小学生でも甘えは許されないのだと教えられました。笑
俳優さんやタレントさんと違い、モデルの現場にマネージャーさんは基本的についてこないんです。どんなに過酷な撮影で風邪をひいてしまっても、その日以降の撮影の人たちには関係なく、ただ単に「体調管理、自己管理ができないモデル」と言われてしまいます。
私たちは代わりがいないので、休む(仕事に穴をあける)ことは、仕事が無くなることを意味します。華やかに見られがちな世界ですが、大人になればなるほど、仕事に至るまで体のメンテナンスや準備も必要です。
「中身を磨くこと」も仕事。様々な生活スタイルの人たちを知るために日々努力
また、別のマネージャーさんには、「仕事がない時間は、知性と品格を身につけなさい」と教えられました。本を読んだり、美術館へ行くのはもちろんですが、良い物を見て、知ることの必要性を学びました。具体的に言われたのは、銀座のデパートへ行って、運動のために“階段で”物販の最上階まで上がり、高級品を学ぶということでした。
デパートの一番上の階には大体、食器や寝具などが並んでいます。ヨーロッパの高級な食器、日本の伝統の焼き物など、若い女の子では手にしないような物を実際に見て触らせていただくことができます。私は身長が高くないので、ファッションモデルではなく、広告やCMの仕事がほとんどだったため、色んな生活スタイルの人たちを知る必要があり、こうしたインプットは表現をする上で、とても役に立ちました。
私は、現在はモデルというより、動画で喋るものや、商品プロデュースなど別のジャンルの仕事をさせていただいていますが、今の時代は、「どういう人間で、どう生きているか」も伝えられるのが楽しいですね。私は乳がんを経験しましたが、モデルという職業をしてきたからこそ、耳を傾けて貰える部分もありますし、皆さんが私を見守ってくれていることも感じられ、とても仕事にやりがいを感じています。
モデルは大体の人が何回かは経験する膀胱炎…冷えはやっぱり女性の大敵!
――ご自身の仕事で、「女性の健康」という面で気を付けていることはありますか?(具体的なエピソードがあればそれと一緒に)
20代のあるとき、寒い日に薄着で撮影をしているとき、忙しくてトイレに行くのを我慢していたら、膀胱炎(ぼうこうえん)になってしまって…初めてだったので、なんだかわからず、先輩に相談したら「それは膀胱炎だよ」と教えられました。更に驚いたのは、モデルはほとんどの人が何回も膀胱炎を経験すると言われたことです。我慢することは体には何も良いことはないなと、そのときに思いました。
私たちは、個人事業主(自営業)なので、会社の健康診断のような制度がないため、自分で管理をしないといけません。その割に、体力勝負で過酷な仕事でもあり、体調管理がとにかく重要です。モデルは、夏でも温かい飲み物を飲む人が多いです。体を冷やすと体調に影響しますし、血行が悪くなることで浮腫んだり、痩せにくくなったりします。
よく「食事制限はしますか」と聞かれますが、みんな何でも食べます。ただ、野菜もお肉もバランスよく、食べる時間も考えて食べますし、無駄な間食はしませんね。それから、何を食べたかを頭の中で考えて、数日の間に食べるものをコントロールしています。そうすることで、食べたいものを食べられるのです。
病気を経験した今、心から思いますが、「健康」はその日に食べるもので出来上がっていきます。健康で過ごしたい、美しい肌でいたい、赤ちゃんが将来欲しい…全部、あなたが食べる物が重要なのです。日本は美味しい食材が、いくらでも手に入りますから、女子の皆さんにはぜひ、ちゃんと食べて、体を冷やさずに、心も体も健康な人でいてほしいですね。
関連記事:万病につながる冷え性の原因とセルフケア
[乳がん体験]乳がん(ステージ0)、右乳房全摘・同時再建手術
――ステージ0の早期発見ができた理由はありますか?
若くして乳がんで亡くなった友達が「何かあったら検診に行ってね」とアドバイスをくれていたんです。その言葉があり、しこりを感じて病院に行きました。医師には経過観察でいいと言われましたが、どうしても気になり、細胞をとって検査をした結果、がんと判明しました。
――ステージ0の早期発見でも乳房全摘することに少し驚いたのですが…
私の場合は、全部で3つ腫瘍が見つかり、バラバラな位置にあったため、「胸は残せない」という医師の判断で、全摘出をしました。ただ、乳房再建という技術もあるので、全摘に迷いはありませんでした。手術はしましたが、胸から他へ転移していない早期だったため、ホルモン療法、抗がん剤や放射線治療などはしませんでした。
――早期発見すると、治療期間が短く(もしくは治療期間なし)なるのは、その後のライフプランの影響も最小限に抑えられますね。
そうですね。女性特有のがんは「若い時間」の可能性を奪います。恋愛・結婚、妊娠など自分が思い描いていたライフプランにも影響があることも。
がんになってしまったことは仕方ないですが、そのあとをどう生きるかが大切です。できれば、早期発見して、失う時間や可能性を最小限に抑えてほしいです。違和感があれば病院へ行く、検診受診を徹底してください。
関連記事:がん検診にはいくつ種類があって、どのような検査をするの?
――身近にがんになった方がいたら、どうやって接することがいいのでしょうか?
よく「告知後、どんな言葉が嬉しかったですか?」と聞かれますが、「必要なことがあったら、何でも言ってね」が救いになりました。”腫れ物に触る”ように、よそよそしい態度になったり「病気になる前と違う扱い」をされるのが、患者さんはとても傷つきます。
もちろん、「どう接していいか分からない」という気持ちも、とても分かります。ただ、専門的な病気の相談をされても分からないと思うので、それは「〇〇っていう相談窓口があるみたいだよ」と、サポートの団体を紹介してあげるのも良いかと思います。「自分のことを考えてくれているんだ」という気持ちが伝わるだけでも、相手は癒されます。
今だから思う「若いときの健康への後悔」
――藤森さんが今だから思う「若いときの健康への後悔」について教えてください。
若いときの後悔というか、若いときに習った昭和の慣習「生理痛は我慢が常識」で危うく後悔しそうになりました。
私は婦人科系が弱く、中学生から重い生理痛で苦しんでいて、出血も多く、高校生のときから婦人科へ行っていましたが、それでも女性の体について知識がなかったなと思います。毎月、痛いのが当然で生きてきたのと、親世代からは「生理痛は我慢するもの」という暗黙の了解が女性たちの中であったので、ひたすら耐えるものだと信じていたんです。
今、子宮内膜症の治療をするために薬を飲んでいますが、それが発覚したのも、年々、痛みが酷いので婦人科で相談し「このまま放っておいたら、卵巣、子宮、酷いと腸まで癒着して全摘出するようになる」とお医者さんに教えていただき、薬を飲むことになりました。膀胱炎で、我慢は良くないと学んだはずなのに、また我慢をして過ごしたら大変なことになるところでした。
関連記事:生理痛による腰痛との上手な付き合い方|セルフケアについて紹介
若い世代に伝えたいこと
――“人生の先輩”として伝えたいことを教えてください。
私が育ったアナログな時代と違い、今は何でも簡単にすぐに解決したり、手に入ります。
技術は進化しましたが、人間の”体”だけは、全てに時間を要します。その代わり、必要な物を届ければ、体は応えてくれます。【きちんと食事をし、適度に運動をし、ちゃんと眠る】若い皆さんが、これをすれば私よりも何倍も速く、体が応えてくれます。全ての物事は、あなたが叶えたい未来に繋がっている。そう信じて過ごしてほしいです。
いま取り組んでいる活動について。C-ribbons、T-PEC子宮頸がんNAプロジェクト
――NPO法人C-ribbonsの活動について教えてください。
C-ribbonsは「たとえ病気になっても、素敵な女性でいたいはず」「起きてしまったことは変えられないとしても、次の人生への、 “きっかけ”作り をお手伝いしたい」という思いから、NA=Not Alone(ひとりぼっちじゃないよ!)を伝えるために、2016年に設立した団体です。2021年に6年目を迎えました。
新型コロナウイルス感染拡大前は、定期的なイベントを開催していました。がんサバイバーと健康な人の垣根を作らないことも信念にあるので、メイクイベントなど女性が興味のあるテーマでイベントを開催、その中で私が乳がんや子宮頸がんなどのお話をしています。
――どんなイベントを開催していますか?
よく開催しているのは、みんな大好きメイクイベント「NAビューティー」です。まつ毛の正しいメイク方法をプロのメイクアーティストを招いてレッスンをしました。あとは、がんになった親とその子どものためのイベント「NAつくる」も開催しました。親が話している間、子どもたちは石鹸づくりを楽しむものです。
――イベントの中で特に印象的だった出来事などはありますか?
メイクイベントでは、女子大生から60代の女性まで年齢を問わず参加していただき、女性の美意識に感動しました。また、乳がんサバイバーの方も多く参加してくださり、ウィッグで来たことに不安そうだったのに、皆さんの顔がイベントが進む中でキラキラしていくのが、見ていて嬉しくなりました。
「つくる」というイベントでは、お子さんたちは、すぐに仲良くなり楽しんでくれましたが、彼らが経験したことをご家族から聞くたびに、胸が締め付けられ、もっと何とかしたいなと感じています。人って、見ただけでは抱えていることは何も分からない。活動をしていて、いつもいつも思います。
T-PEC子宮頸がんNAプロジェクト開始。アドバイザーとして藤森さんの参加決定!
――子宮頸がん啓発をしようと思ったきっかけは何かあるのでしょうか?
若い芸能人の方が乳がんを公表されることが増えたせいか、20~30代の人たちへ向けて乳がんのお話をさせていただくことが増えました。ただ、り患数としては乳がんはやはり、40代以降が多いんですよね。もちろん、30代の女性でも増えていますが、それよりも子宮頸がんになる確率の方が高いですしそちらの知識が日本の女性には伝わっていないということを本当に実感したからです。
また、高度異形成(子宮頸がんの前の段階)の相談をされることも多いんですが、そうした子たちはほとんどの場合、病気になったことを他の人に言いません。ですから、「私の周りにはいない」と、女の子たちは言いますが、実際には多くいるのに…
命にかかわることなのに、当事者である女性たちが自分の体のしくみさえ知らない。素晴らしい医療技術と皆保険制度があるのに、命を落とす女性がいるのは悲し過ぎます。
“T-PEC子宮頸がんNAプロジェクト”とは? ティーペックとNPO法人C-ribbons(代表:藤森香衣)が「病気になっても一人で悩まない(Not alone)」をテーマとして、子宮頸がんの早期発見を目指して2021年に立ち上げた活動です。 仕事、学業、プライベートや子育て等で忙しい女性たちが隙間時間に楽しく学べるような女性の健康に関する話題、子宮頸がんの疑問・不安、もし見つかった場合もサポート先の知識や情報を届けています。 |
――改めて考えると、子宮頸がんだけでなく、子宮筋腫、子宮内膜症…「子宮」というキーワードがつく病気がたくさんありますね。女性はこの病気にどのように向き合えばいいのでしょうか?
生理痛には個人差があるため、痛みを我慢することが当たりまえと考えている人もいるのではないでしょうか。 実際、私も周りの友達も「そういうものだ」と思って過ごしていました。そして、婦人科系のことって、若いと特に友達には話しにくいですよね。
年齢を重ねたり、出産を経験すると話しやすくなる部分もありますが、逆に子宮筋腫については「私もあるから普通だよ!」と連帯感で、病院へ行くのをやめてしまったり…やはり一度専門家への相談が必要です。
―――T-PEC子宮頸がんNAプロジェクトのよいところを教えてください。
電話健康相談やセカンドオピニオン手配サービスなど、もしもがんになっても支えてくれるサービスを提供しているティーペックさんが取り組んでいるプロジェクトであること。社内の理解があり、男性社員さんたちから、このプロジェクトが発案されたのも素晴らしいと思いました。1社で完結せずに私に声をかけてくれたり、他社も巻き込んだり、社会全体の活動をしようとしているところが良いと思っています。
子宮頸がんの話だけにとらわれず、「女性の生き方」「若い人に向けた情報」「仕事と体について」など色々な方へ私がインタビューをし、若い女性たちのこれからの指針となるような物をお届けしたいと思いますので、皆さん、宜しくお願いします。
■取材・文/大井美深
ティーペック株式会社の広報担当。T-PEC子宮頸がんNAプロジェクトを企画
インタビュイープロフィール
藤森 香衣(ふじもり かえ)
モデル活動、NPO法人 C-ribbonsを設立、代表理事を務める。
T-PEC子宮頸がんNAプロジェクトで企画・取材・執筆を担当
※当記事は、2024年4月に作成されたものです。
※当記事内のインタビューは2021年8月に行われたものです。
※当記事は個人の体験談に基づくものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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