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将来の妊娠出産のために今からできることは?~今注目の「プレコンセプションケア」で未来のための健康管理~【専門家インタビュー】

公開日:2025.08.12

「将来の妊娠出産のために、今できることは何だろう?」「いつかは赤ちゃんがほしいけど、今のままの生活を送っていて大丈夫なのかな…?」妊娠・出産について考えるときに、このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。将来の妊娠に備えた健康管理の新しい考えに、「プレコンセプションケア」というものがあります。これは単なる「妊活」ではなく、妊娠前から自分の体と向き合い、将来の自分と子どもの健康を守るための取り組みです。また、プレコンセプションケアに取り組むことで、妊娠を望むかどうかに関わらず、より健康な人生につながります。今回は、産業医として30年以上の経験を持ち、働く女性の健康管理をライフワークとする長井聡里先生に、働く女性の視点からプレコンセプションケアについてお聞きしました。

プレコンセプションケアは、次世代にもつながる健康管理

―プレコンセプションケアについて分かりやすく教えてください。

プレコンセプションケアとは、将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの健康や生活に向き合うことです。「プレ(pre)」は「前」、「コンセプション(conception)」は「受胎」を意味し、妊娠前からの健康管理を指します。つまり、「将来子どもを持つことを選んだ場合のために、いかに健康な体でいるか」という点が土台となり、妊娠・出産を経て生まれた子どもへの健康にもつながります。次世代の健康も考慮した考え方でもあるのです。

すべての女性にとって、多様な人生の選択を支えるケア

―なぜ、プレコンセプションケアが必要とされているのでしょうか。

必要とされている背景には、ひと昔前より女性が広く社会で活躍できるようになった時代の変化があります。例えば、現代はライフスタイルの多様化により、妊娠を望むタイミングも人それぞれです。その一方で、現在では結婚したカップルの4〜5組に1組が不妊治療を経験している現実があります。

プレコンセプションケアは「いつか」の備えとして、将来の自分と子どもの健康を守るために、今の自分の体と向き合うケアです。若いうちからケアすれば、将来のさまざまな健康リスクを減らすことにもつながります。

―プレコンセプションケアは、母親と子どもの健康にどのように関わるのでしょうか。

妊娠する前から体づくりを意識することは、将来の妊娠をスムーズにするだけでなく、生まれてくる子どもの健康にもよい影響を与えます。例えば、女性が「やせ」だと早産や低出生体重児出産のリスクがあります。さらに、生まれてくる子どもは将来的に高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクが高まり、人生を歩み始めたときに影響が及ぶこともあるでしょう。つまり、お腹の中にいる時の栄養状態が、生まれた後の健康に関わる場合もあるのです。将来のライフプランを考える上で、若い時から日々の生活や健康と向き合うケアをしていればこのようなリスクは防げると思います。

―将来的に子どもを持つ予定のない方にとっても、プレコンセプションケアは役に立ちますか?

「プレコンセプション(受胎前)」という言葉が使われていますが、これは単に妊娠・出産のためだけの取り組みではありません。若い年齢からの健康づくりは、更年期障害や閉経による骨密度の低下など、年齢による変化に対応できる体づくりにもなります。

プレコンセプションケアは子どもを持つかどうかに関わらず、誰にとっても健康的な生活を送るための“生涯を通じた健康管理”です。これから多様な人生を選べる土台としてのケアでもあるという点は、強くお伝えしたいですね。

忙しい現代人でも取り入れられる、プレコンセプションケア

―プレコンセプションケアとして日常生活の中で見直しておくとよい習慣や実践すべきことを教えてください。

プレコンセプションケアの基本は、体重管理・食生活・生活習慣です。国立成育医療研究センターが提示している『プレコン・チェックシート』を参考にしましょう。

例えば、「適正体重を知ってキープすること」はプレコンセプションケアの一つです。特に、痩せすぎの問題は、日本肥満学会では女性の低体重・低栄養状態を症候群として捉え、今後は診断基準や治療法を解明していく方針が示されています。これを防ぐためには、「バランスのよい食事を意識する」ことで、栄養を摂る必要があります。最近は、栄養機能食品も充実していますが、それだけでは十分な食事で栄養を得ているとはいえません。

また、特に妊娠を希望する女性に生活で意識して摂取してほしい栄養素は、「葉酸」です。葉酸は妊娠の1ヶ月以上前から摂取したい栄養素であり、基本的にほうれん草やブロッコリー、果物、レバーなどの食品に含まれています。しかし、調理や保存方法によっては栄養素が壊れてしまい、意識して摂取するのが難しい場合もあります。こうした理由からサプリメントでの補給が推奨されている成分であり、近年は薬局などでも販売されているため、手軽に摂取できますよ。

―「適正体重を知ってキープする」「バランスのよい食事をこころがけつつ、葉酸を摂取する」。それ以外に、チェックシートの中で“これだけは!”という注意点はありますか?

タバコとお酒への向き合い方ですね。男性の喫煙率下がってきましたが、女性の喫煙率はあまり下がっていない現状があります。近年は加熱式タバコが主流になり、煙が出ないことで問題ないように捉えている方もいると思います。ただ、一見、公共では受動喫煙の害が減ったように見えますが、実はご本人が喫煙していることには変わりありません。

また、タバコもお酒も依存性の高い嗜好品です。「妊娠したらやめよう」と思っていても、いざその時になってやめられない可能性もあるのです。どちらもお腹の赤ちゃんにとって悪影響を及ぼすため、妊娠を考える前から禁煙・節酒の習慣を心がけていただきたいですね。

―日々忙しく働いている場合、こまめにチェックシートを見る時間がない方もいるかもしれません。このような方は、どうすればよいですか?

まずは、年1回の健康診断の結果を受け取り、しっかり内容を確認して生活習慣や自分の体と向き合い、振り返る時間を持ってほしいですね。特に若い世代は「どこも悪くない」と思われがちですが、実際にはさまざまな健康課題が隠れていることもあります。それと併用して、チェックシートにある「バランスのよい食事」「よい睡眠」「生活習慣病のチェック」「がんチェック」などの項目も照らし合わせていただきたいです。

最近ではデジタル技術の発達により、食事管理アプリなども普及しています。こうしたツールを活用すれば若い世代でもビタミンや鉄分の摂取状況を把握し、食生活を振り返ることができるようになってきました。年に1回の健康診断の結果と日々の振り返りを組み合わせれば、日々忙しい方でも効果的なプレコンセプションケアにつなげられます。

男性にも必要なプレコンセプションケア

―プレコンセプションケアは男性にも必要とのことですが、その理由を教えてください。

子どもは女性一人では生まれず、パートナーとの性交渉があって妊娠します。つまり、男性の健康状態や遺伝的な影響は子どもの健康にもかかわります。プレコン・チェックシートは男性向けもあり、「パートナーと一緒に健康管理」するという項目が含まれています。男性も女性と同様に、「適正体重を維持する」「禁煙する、受動喫煙を避ける」「過度な飲酒は避ける」「バランスのよい食事を意識する」など、基本的な健康管理に取り組むことが大切です。

また、これまであまり重要視されていなかったのは、男性の風疹や子宮頸がんのワクチン接種です。例えば、風疹のワクチン接種が男性に行き渡っていないケースにより、数年前に風疹が流行した時には問題になりました。「大人の男性だから大丈夫」と考えている方は少なからずおり、「妊婦さんのために」という視点でワクチン接種する方はまだ少ないように感じます。妊娠中の女性が風疹に感染すると、生まれてくる子どもに先天性風しん症候群が生じる可能性があるため、注意が必要なのです。

―男性も子宮頸がんワクチンを接種した方がよいというのは初めて聞きました。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスは、性交渉によって感染します。子宮頸がんのワクチンは日本では女性しか接種していませんが、小学校の時期に男女とも接種する国もあります。つまり、子宮頸がんは本来、両方がワクチンを接種して互いに感染を防ぐことが大切なんです。しかし、国の補助でワクチンを接種できるのは女性だけ。その背景は、男性は子宮頸がんのウイルスによる症状は出にくいため、接種する必要性を感じないと思われて今に至っています。

プレコンセプションケアは、パートナーと一緒に健康管理することで、将来の妊娠だけでなくお互いの健康と幸せな家族生活の基盤を作ることにもつながるのです。

【関連記事】男性も感染するヒトパピローマウイルス(HPV)とは

「未来の私は、今日作られる」自分らしい人生を送るために

―近年、企業や自治体にもプレコンセプションケアを支援する動きがありますが、働く側としてこのような動きをどうとらえ、活用していけばよいかお聞かせください。

女性の健康問題はかつて個人の問題とされ、職場では優先度が低く扱われていました。しかし今は女性の活躍が社会全体にとって不可欠な時代となり、企業も女性の健康サポートに本腰を入れ始めています。

かつて私が産婦人科で不妊外来を担当していた時、食生活の乱れや仕事と妊活の両立に悩む患者さんを通して、生活習慣や働き方に関する課題の重要性は実感していましたが、当時はそうしたことが社会的に注目されていませんでした。しかし、それがようやくプレコンセプションケアという形で国も課題として捉え、本格的に取り組みを進めています。

企業や自治体の支援をただの「健康管理」と割り切らず、将来の自分のための健康投資として積極的に活用していただきたいです。健康診断や保健指導も単なる義務ではなく、自分自身の体と向き合う大切な時間と捉えるとよいかもしれません。

―いつか子どもを産みたい、という女性へのメッセージをお願いします。

私は、「未来の私は、今日作られる」という言葉を大切にしています。明日のあなたは、今日食べたものや生活習慣で作られているのです。将来、家族を持ち、子どもを産むことを未来の自分の「予定」として考えるなら、今からの積み重ねがとても大切。

あなたが母親のお腹の中にいた時、すでにあなたのお腹の中にも次世代となる卵子があるため、女性には3世代が揃っている瞬間が一瞬あります。今の健康管理は単に現在の自分のためだけではなく、将来のあなた自身、そしていつか生まれてくる子どもの健康の基盤にもなる。長い時間軸での健康づくりなのです。

自分が望む時に、望む選択ができるよう、日々の小さな健康習慣を大切にしてください。パートナーがいる方はパートナーとも一緒に健康管理をして、二人で取り組む姿勢を心がけましょう。

もちろん、子どもを持つ予定のない方も、プレコンセプションケアを取り入れれば将来の健康不安を解消することにつながります。自分らしい人生を歩むための土台として、日常のちょっとした習慣からプレコンセプションケアを始めてみてくださいね。

<ティーペック編集部より>

「いつかは子どもがほしいけど、今のままの生活習慣を続けていて大丈夫かな?」「特に意識して摂取したほうがよい栄養素はあるのかな?」など、プレコンセプションケアに関する疑問を持ったときに、保健師や看護師などに相談できる、「健康相談サービス」をご存じですか?詳しくはこちらをご覧ください。

株式会社JUMOKU代表取締役 / 医師

長井 聡里(ながい さとり)

1989年産業医科大学医学部卒業。大阪労災病院で産婦人科医として臨床経験を積み、1993年から民間企業にて産業医として従事する。1997年より厚生労働省委託の「働く女性の身体と心を考える委員会」の委員を継続中。2013年包括的な産業保健サービスを提供する株式会社JUMOKUを設立。

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≪執筆者プロフィール≫
ライター:みつはら まりこ
2022年ライターとして活動をスタート。社会福祉、SDGs、インテリアデザイン(ホテル・病院・福祉施設)、地方女性の働き方などをテーマに企画・執筆中。

※当記事は、2025年7月に作成されたものです。
※当記事内のインタビューは、2025年4月に行われたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

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