ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸がんを引き起こす原因として耳にしたことがある人も多いでしょう。しかし、HPV感染によるがんのリスクがあるのは女性だけではありません。男性もHPVに感染することで、がんを発症するケースがあります。この記事では、男性が感染した場合、どのような病気や症状につながるのか解説します。
目次
1. HPVとはどのようなウイルスなのか
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、普段の生活ではあまり関わりのないウイルスと思う人もいるでしょう。HPVとはどのようなウイルスなのでしょうか。
1.1. HPVの特徴
HPVは特別なウイルスではなく、私たちが生活している場所のいたるところに存在しています。HPVには「型」があります。HPVの型は100種類以上で、そのうち13種類ががんを引き起こす可能性があるとされています。その他のほとんどのHPVは何の症状も起こしません。
1.2. HPVの感染経路
HPVは性交渉によって感染します。ウイルスを持った人と性交渉を行った場合、すぐに感染してしまいます。
HPVに感染しても、ほとんどのケースで無症状です。HPVに感染しているかどうかを調べる検査もありますが、無症状の場合に検査を受けることはほとんどないでしょう。そのため自分がHPVに感染していると気づかないままの人も少なくないと考えられます。性交渉の経験がある人は、誰もが感染するリスクがあります。
1.3. HPVに感染したらどうなるのか
感染すると、多くの場合は何の症状もなく経過し、2年以内にはほとんどのHPVが治療をしないまま治ります。しかし発がん性のある型のHPVに感染し、自然にウイルスが消えなかった場合、子宮頸がんを発症することがあります。健康な女性では、感染してから子宮頸がんになるまで、15年から20年もの時間がかかります。気がつかないうちに進行してしまうこともあるでしょう。
HPV感染によって発生するがんは、子宮頸がんだけではありません。HPVは肛門、外陰部、膣、陰茎、中咽頭のがんを引き起こすとされており、女性だけでなく男性も注意が必要なのです。
子宮頸がんについての詳細は、「知っておきたい女性特有の病気」をご覧ください。
2. 男性もHPV感染に注意
性交渉の体験があれば、HPVは女性だけでなく男性も感染します。HPVに感染しないためには、予防のために正しい知識を持つことが大切です。HPV感染の予防や早期発見のため、男性が注意すべきポイントをまとめました。
2.1. 男性では尖圭コンジローマ、肛門がんと中咽頭がんが多い
男性がHPVに感染すると、尖圭(せんけい)コンジローマ、肛門がん、中咽頭がんの原因になります。国立がん研究センターによると、「中咽頭がんの発生には、喫煙、飲酒のほか、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因となっているものがあることが分かっています。」(※1)とされています。
【出典】
※1:国立がん研究センター がん情報サービス「中咽頭がん 予防・検診」https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/prevention_screening.html
2.2. 男性も予防のためにワクチン接種をしよう
HPV感染を予防するために、もっとも有効なのが性経験前のワクチン接種です。これまでワクチンを接種できるのは女性のみでしたが、尖圭コンジローマや肛門がんの予防に効果があるとして、令和2年から男性も接種が可能になりました。男性に接種されるHPVワクチンは4価HPVワクチンです。
女性だけでなく、男性も積極的にワクチンを接種して、感染予防に努めましょう。パートナーと一緒に接種するのもいいでしょう。
3. HPV感染が疑われるのはどんな症状?
HPVに感染しただけでは何の症状もないため、自分が感染しているか気づかないケースが多いです。感染から時間が経過して性器のがんが発生すると、さまざまな症状が起こるため、そこで初めてHPVに感染していることを知る人がほとんどです。
何らかの症状や違和感があったら、すぐに受診するようにしましょう。もしもの際にいち早く違和感に気づけるよう、HPV感染による症状にはどのようなものがあるのか理解しておきましょう。
3.1. 尖圭コンジローマが疑われるとき
HPV感染で外陰部に起こる腫瘍が尖圭コンジローマです。尖圭コンジローマは、性感染症のひとつとされています。
尖圭コンジローマは、HPVの6型と11型、まれに16型の感染で起こります。このいずれかの型に感染すると、数週間から3ヶ月程度の期間を経て、陰茎や亀頭、包皮、肛門部などの周辺に、イボのようなものがいくつも発生します。このイボは良性の腫瘍で、淡紅色または褐色です。
外陰部にかゆみや違和感、痛みなどの症状が起こりますが、イボができるだけで症状が出ないことも少なくありません。そのために、受診しないことで感染を広げてしまう可能性があります。自覚症状がなくとも尖圭コンジローマが疑われるときは、早めに受診したほうが安心です。
3.2. 肛門がんが疑われるとき
HPV感染は、肛門がんを引き起こすこともあります。国立がん研究センターによると、症状として「肛門がんの主な症状には、肛門周囲の痛みや違和感、肛門付近の腫(は)れやしこり、排便時の出血などがあります。症状が出ないこともあります。」(※2)とされています。違和感に気づいたら受診するといいでしょう。
【出典】
※2:国立がん研究センター がん情報サービス「肛門がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/analcancer/index.html
3.3. 中咽頭がんが疑われるとき
HPVに感染すると、性器のみでなく、中咽頭にがんが発生する可能性もあります。中咽頭とは、口の奥から舌の付け根の辺りです。HPVのほか、喫煙・飲酒が原因となって発症することもあるがんです。
症状について国立がん研究センターは「中咽頭がんは、初期のうちは自覚症状が見られないことがあります。症状としては、飲み込むときの違和感、おさまらない咽頭痛、のどからの出血、口を大きく開けにくい、舌を動かしにくい、耳の痛み、口の奥・のど・首にできるしこり、声の変化があげられます。」(※3)としています。
【出典】
※3:国立がん研究センター がん情報サービス「中咽頭がん 予防・検診」https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/prevention_screening.html
4. 男性もHPV予防に努めよう
女性だけでなく男性も感染するHPV。性器のがんを引き起こし、症状が出るまで気づきにくいため、予防が何より有効です。男性もワクチン接種が可能となったため、パートナーと一緒にワクチン接種をすることで、お互いにうつし合う「ピンポン感染」を防ぐことができます。女性だけの問題と考えるのではなく、男性も予防に努めましょう。
<編集部より>
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≪執筆者プロフィール≫
ライター・秦さきよ(はたさきよ)
看護師・保健師・糖尿病療養指導士(L)。2020年よりライターとして活動。医療や介護、SDGsに関する記事を多数執筆している。
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参考
- 厚生労働省検疫所FORTHホームページ「ヒトパピローマウイルスと子宮頸がんワクチン(ファクトシート)」
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2016/06081122.html - 厚生労働省「尖圭コンジローマ」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-33.html - 厚生労働省「性感染症」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/index.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「中咽頭がん 予防・検診」
https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/prevention_screening.html - 国立感染症研究所「尖圭コンジローマとは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/428-condyloma-intro.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「肛門がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/analcancer/index.html - 厚生労働省「HPVワクチンの男性への接種について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000972788.pdf
※当記事は、2023年7月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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