心身の健康を高める

世界で注目されるマインドフルネスの効果と実践方法【専門家インタビュー】

VUCAと呼ばれる将来の予測が困難な現代、働き盛りのビジネスパーソンは仕事やプライベートでさまざまな悩みや不安を抱えています。自分や家族の将来について考えすぎてしまう、あるいは過去について後悔する時間が多くなってしまうと、集中力やパフォーマンスが低下するだけでなく、メンタルヘルス不調が現れてしまうこともあります。心身ともに健康な生活を送るためには、効果的なストレス対処法を知り、実践することが大切です。その1つとして、近年ビジネスパーソンに注目されているものに「マインドフルネス」があります。一般社団法人マインドフルネス瞑想協会代表理事の吉田昌生氏に、マインドフルネスの効果や実践方法を伺いました。

マインドフルネスとはこの瞬間を客観的に見つめるトレーニング

――マインドフルネスとはどのようなものなのでしょうか?

一言でいうと、「セルフ・アウェアネス」です。日本語では「気づき」「自覚」「無意識の意識化」という表現がされます。現代的には「メタ認知」ともいわれます。自分の何となく感じていること、考えていることを少し引いたところから見るような、観察者の視点を獲得するための実践がマインドフルネスです。マインドフルネスを行うことで、「今、この瞬間に意図的に意識を向ける」「評価や判断をせずにありのままを受け入れる」といったことが可能になります。

こころの働きが過剰になりすぎると、未来に起こるかもしれないことや過去に起こったことを考え、さらにそれらを「良い・悪い」と自分で判断して不安や後悔が大きくなってしまうことがあります。これをマインドフルネスの反対の状態、「マインドレスネス」や「マインドワンダリング」といいます。

実は、現代人の一日の約47%がマインドレスネスの状態にあるといわれています。この状態の割合が多くなると、未来への心配や不安、また過去への後悔が大きくなります。何度も同じことを考え、その思考や感情によってこころや脳が疲れてしまいます。このような状態から、マインドフルに、今この瞬間に意識を向けて、自分が考えていることや感じていることを客観的に見つめていくトレーニングがマインドフルネスなのです。


――近年、マインドフルネスがビジネスパーソンに注目されている理由について教えてください。

近年では、Googleが研修にマインドフルネスを取り入れたことも有名です。そこからさまざまな企業が注目するようになり、アスリートや経営者など、個人でもマインドフルネスを取り入れている方が多くいます。

この背景には、マインドフルネスの効果を科学的に調査した論文が出され始めたことがあります。瞑想と聞くと宗教を思い浮かべるかもしれませんが、マインドフルネス瞑想は脳のトレーニングのようなものです。「呼吸に意識を向けて、意識がそれたらまた呼吸に意識を戻す」という単純なトレーニングの積み重ねで、平常心や平静さが身につくことがわかってきています。

プレッシャーでこころが揺らぐと、良いパフォーマンスを発揮できなかったり、冷静な判断ができなかったりします。経営者や管理職などが優れたリーダーになるためには、自分の内側を見て気づき、感情的にならず、常に冷静である必要があります。そのトレーニングの1つとして、マインドフルネス瞑想が注目されているのだと考えます。

マインドフルネスは脳への効果が期待されている

――マインドフルネスにはどのような効果がありますか?

対象に意識を向ける、意識がそれたら対象に意識を戻す、この単純なマインドフルネス瞑想が脳のトレーニングになることが近年わかってきています。マインドフルネス瞑想の継続で、集中力や記憶力、感情の調整機能の向上が期待できます。そのほか、適切な方法で行えば、うつ病や不安症などのメンタルヘルスにも良い効果があるとされています。パフォーマンスの向上も効果の1つです。

マインドフルネス瞑想によって脳の活動が静かになることで、自律神経のバランスが整ったり、睡眠障害やストレスなどの問題を軽減したりする効果も期待できます。自律神経にある交感神経と副交感神経は、自動車などのアクセルとブレーキのようなものです。現代人は、アクセルのような交感神経が優位になりがちです。交感神経が優位になると、睡眠障害や胃腸の不調、メンタルヘルス不調などが起こりやすくなります。

マインドフルネス瞑想でゆっくりと深呼吸をしていくと、副交感神経が優位になります。これにより、自律神経のバランスが整っていく効果が期待できます。マインドフルネスは第三世代の認知行動療法ともいわれており、マインドフルネスを使った治療法もあるほどです。中長期的には、脳の構造にも変化が見られるようになります。セルフコントロールに関与する前頭前野が活性化し、恐怖や不安、悲しみなどに関与する扁桃体が小さくなることがわかっています。


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マインドフルネス瞑想の種類と基本の方法

――マインドフルネス瞑想について詳しく教えてください。

マインドフルネス瞑想は、次の3種類に大別できます。

1.集中力を高めるトレーニング「集中瞑想」

サマタ瞑想とも呼ばれるものです。集中瞑想は、対象を一点に定めて、それに集中し、意識がそれたら再び対象に意識を戻すという瞑想方法です。呼吸に意識を向ける集中瞑想を行う方が多く、その他にも音に集中する瞑想やろうそくに集中するキャンドル瞑想などがあります。

2.観察する力を高めるトレーニング「観察瞑想」

ヴィパッサナー瞑想、オープンモニタリング瞑想とも呼ばれる観察瞑想では、対象を定めずにこころが感じたことを、ありのまま観察していきます。この瞑想は、気づく力、洞察力を高めることから「知恵の瞑想」とも呼ばれています。

観察瞑想では、自分の中に湧き出る思考を、川を流れる木の葉のようなイメージで、ただ目の前を通り過ぎて行く様を観察します。思考を客観的に見る観察瞑想によって、「脱同一化」を図れます。脱同一化とは、思考と感情を自分から切り離していくことです。

思考が暴走している状態で、自分の思考を良い・悪いなどで判断しないようにします。例えば、ネガティブな思考が浮かんだとき、そしてそれをもう少し考えていたいと思ったとしても、「と、思った」とこころの中でつぶやいて思考を手放していきます。

観察瞑想には、自分の身体を観察するボディスキャン瞑想、思考を書き出すジャーナリング(書く瞑想)などがあります。

3.共感力や思いやりを育むトレーニング「慈悲の瞑想」

集中瞑想の一種である慈悲の瞑想は、他者あるいは自分に思いやりを持つことで、こころを穏やかにしていきます。慈悲の瞑想では、他者や自分に向けて慈悲のフレーズを唱えます。

慈悲の瞑想を継続し、自分を思いやり、あるがままを受け入れることで、苦しさから解放されたり、良いパフォーマンスを発揮したりすることができるようになります。


――マインドフルネス瞑想はどのようにして取り組めばよいのでしょうか。

初めてのマインドフルネス瞑想には、呼吸に集中する集中瞑想がおすすめです。呼吸は次のようにして行います。

STEP1. アラームをセットする
終了時間にアラームが鳴るように、セットしておきます。はじめは2~3分、慣れたら10分が目安です。

STEP2. 姿勢を整えて呼吸に意識を向ける
呼吸は鼻で行う腹式呼吸がおすすめです。呼吸を操作しようとせず、自然に繰り返される呼吸を見つめましょう。

STEP3. 意識がそれたら呼吸に戻す
呼吸以外に意識が向いていることに気がついたら、再び呼吸に意識を向けましょう。意識や思考に評価や判断をしないようにします。

まずは自分の呼吸に意識を向けて、呼吸から意識がそれたら再び呼吸に意識を戻していきます。はじめは1日10分を目指して行いましょう。10分の集中瞑想が難しい方は、2~3分程度からでも大丈夫です。生活の中で瞑想の時間をとって、継続していくことが大切です。


――マインドフルネス瞑想におすすめの時間帯はありますか?

もっともおすすめしたい時間帯は朝ですね。瞑想をするとリラックスするため、疲労を感じているときには眠気を感じてしまうことがあります。朝は眠気を感じにくく、静かで空気も澄んでいることから瞑想後はすっきりとした気分になるでしょう。朝だけでなく、マインドフルネス瞑想はいつ行っても良いものです。自分の生活の中で、瞑想に取り組めそうな時間を見つけて継続してほしいと思います。

自分の習慣と瞑想をセットにして、瞑想に慣れてきたら一日何度でも実践してみましょう。例えば、掃除をしながら、歯を磨きながら、通勤中でもいいですね。通勤電車でいつもならスマートフォンを見ている時間を、少し瞑想にあてるなどしてみましょう。前述したように、マインドフルネス瞑想はトレーニングです。筋トレのように、毎日継続して積み重ねることで、マインドフルな時間が増えていきます。

一人で取り組むことが難しい場合は、マインドフルネス瞑想の動画やアプリを使う、自分にとって瞑想に合った音源をつくっておき、流しながら実践するというのも1つの方法です。眠る前に瞑想をして、自律神経を整え入眠しやすくすることもできます。特に眠れない夜は、「眠れないこと」に意識を向けずに、瞑想でこころを落ち着かせてみましょう。

自分の状態から選択・実践!おすすめのマインドフルネス瞑想

――集中瞑想、観察瞑想、慈悲の瞑想それぞれはどのように使い分ければよいのでしょうか。

不安を感じているときや集中したいときには、集中瞑想がおすすめです。何か不安を感じたとき、1つの物事に集中したいときにはまず呼吸に意識を向けて、集中瞑想をしてみましょう。呼吸に意識を向けることが難しい方は、歩くことに意識を向ける歩行瞑想など、呼吸以外のものに集中する方法もあります。

洞察力を向上させたい方、客観的な視点を身につけたい方、感情的になることを減らしたい方には観察瞑想がおすすめです。自分の思考を評価することなく観察する瞑想を継続することで、評価をせずに物事を客観的に見て捉えられるようになり、思わず感情的になることも少なくなっていきます。

つい自分を責めてしまう方は、慈悲の瞑想をしてみましょう。慈悲の瞑想によって、自分を大切な人と同じように思いやれるようになり、今の自分を否定することなく受け入れられるようになります。

緊張しやすい方、ここぞという時にパフォーマンスを発揮したい方にも慈悲の瞑想はおすすめです。私自身、もともと人前で話すことに苦手意識を持っていたのですが、大勢の前で話すときは事前に慈悲の瞑想をすることで、緊張せずに話せるようになりました。

マインドフルネス瞑想の注意点

――マインドフルネスをこれから実践するにあたり、注意した方がいいことはありますか?

マインドフルネス瞑想は、自分の思考や感情を客観的に見て、それらと自分を少しずつ切り離していくような瞑想法です。そのため、うつ病や不安症の予防効果が期待できます。しかし、瞑想を始めると自分のネガティブな部分や弱い部分、抑圧していた感情やトラウマが出てきてしまうことがあります。そうすると苦しみが生まれてしまいますから、すでに精神疾患を抱えている方は注意が必要です。精神疾患がある方、投薬治療中の方は、主治医に相談のうえ行うことをおすすめします。

そのほかでは、マインドフルネスによる効果を過剰に期待しないことも大切です。結果に執着することで、新たなストレスや苦しみが生まれます。マインドフルネスは継続によってさまざまな効果を期待できますが、いつ、どのようにして効果が表れるのかは個人によって異なります。「こうなりたい」「こういう結果を得たい」という願望を持ちすぎないこと、頑張りすぎないことが大切です。

また、なかなか集中できないときでも、そんな自分を「ダメだ」とジャッジしないようにしましょう。「今、自分は集中できていないな」「ずっと同じ考えをしているな」という自分を、そのまま「そうなんだね」と受け入れてあげてください。

マインドフルネスを取り入れてストレスや不安を手放そう

――最後に、これからマインドフルネスに取り組みたい方に向けてメッセージをお願いします。

マインドフルネスは、特にこころを整えたいときにおすすめです。マインドフルネスの背景にある仏教は、苦しみからの解放、こころの平安を得るためにつくられたものです。人は生きている間に、思い通りにならないことを数多く経験します。別れや死、さまざまな思い通りにならないことが起こったとき、こころが揺れ動いてネガティブになってしまうこともあるでしょう。そこで自分の健康を害するような習慣、例えば暴飲暴食、拒食、アルコールの過剰摂取などによってストレス解消を試みようとする方も少なからずいます。これらのストレス解消法を習慣化してしまうと、苦しみが増してしまうものです。このようなときに、自分のこころが整うようなストレス対処法をたくさん持っておくことが大切です。その1つの選択肢として、マインドフルネスを実践してみてください。マインドフルネスは「呼吸を意識するだけ」から始められる、お金も時間もかからないストレス対処法です。継続によって、精神も安定していきます。

苦しみがあるときだけでなく、集中したいとき、パフォーマンスを発揮したいときにも役立ちます。緊張しやすい方、プレッシャーによる影響を受けやすい方、本番に強くなりたい方がマインドフルネスを実践することで、自己実現にもつながっていくのではと思います。

さまざまな情報に囲まれた現代人は、今自分が何を感じているのか、どのような状態にあるのかにも気づけないことが多々あります。マインドフルに「今、自分は何を感じているのだろう」と感情に意識を向ける時間を持つことが、心身の疲れや違和感に気づくきっかけにもなります。ぜひ、日常生活にマインドフルネスを取り入れてみてください。


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≪執筆者プロフィール≫
ライター:髙橋 みゆき(たかはし みゆき)
2016年よりライター・編集者。各種民間保険、介護、医療、ITなど幅広いジャンルの記事を企画・執筆。
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インタビュイープロフィール

吉田 昌生(よしだ まさお)

一般社団法人マインドフルネス瞑想協会代表理事
ヨガ瞑想講師、作家。
二十代のころ精神的にバランスを崩しマインドフルネス瞑想に出逢う。世界38ヶ国以上を巡り、2009年から、東京、神奈川で「マインドフルネス」をベースにしたyogaや瞑想を指導開始。2015年に出版した「一日10分で自分を浄化する方法 マインドフルネス瞑想入門(WAVE出版)」がベストセラーとなる。
2017年に、一般社団法人マインドフルネス瞑想協会を設立し、養成講座、セミナー、オンライン講座、企業研修を全国で開催。2022年、国内初のマインドフルネス専門のオンラインスクール「株式会社MELON」のChief Mindfulness Officerに就任。
現在は、大手スポーツクラブのメンタルプログラム監修、「Upmind」をはじめとする瞑想アプリの監修、大学や企業での講演・研修を多数行っているほか、指導者を育成する講座も開催している。YouTubeチャンネル登録者3万人
主な著書に、『一日10分で自分を浄化する方法 マインドフルネス瞑想入門』(WAVE出版)、『1分間瞑想法』(フォレスト出版)、『書く1分間瞑想ノート』(フォレスト出版)、など計13冊(海外2冊)。

参考

※当記事は、2024年3月に作成されたものです。
※当記事内のインタビューは2023年12月に行われたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

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