はっきりとした原因は見当たらないのに、だるさや頭痛、疲労感など身体やこころの不調が続くことはありませんか。この“なんとなく調子が悪い”状態は「なんとなく不調(不定愁訴)」と呼ばれており、女性に多く見られるといいます。明確な病気ではないため見逃されやすいですが、放っておくと日常生活に支障をきたすこともあります。本記事では、「なんとなく不調」の主な症状や背景にある原因、セルフケアの方法、さらには医師や専門家へ相談するときのポイントなどについてわかりやすく解説します。(以下、医師監修による記事です)
目次
1.「なんとなく不調(不定愁訴)」とは?
明確な病名がつかないにもかかわらず、身体やこころに不調を感じる状態を、「なんとなく不調」や「不定愁訴(ふていしゅうそ)」と呼びます。疲れが取れない、よく眠れない、気分が落ち込む、胃腸の調子がすぐれないなど、本人にとってはつらい症状が続くにもかかわらず、検査などを受けても異常が見つからないようなケースです。
なんとなく不調は、ホルモンバランスやライフステージの変化が大きい女性に多いとされていますが、男性にも起こり得ます。
このような不調は一時的なものではなく、日常生活に影響を及ぼすほど慢性的に続くことも少なくありません。また、なんとなく不調を自覚していても「どこに相談していいかわからない」「病院にいくほどの不調かわからない」などの理由から、医療機関に相談せず我慢をしている人もいるでしょう。
2.「なんとなく不調」によく見られる症状
原因不明の以下のような症状がある方は、なんとなく不調の可能性があります。
| 身体的不調の例 | 精神的不調の例 |
|---|---|
| 倦怠感、頭痛、冷え、むくみ、便秘・下痢、めまい・ふらつき、のどのつかえや異物感、発汗異常、口の渇き、味覚異常、目の疲れ、睡眠トラブル など | イライラ、気分の落ち込み、不安感、焦燥感、集中力の低下、意欲の低下、無気力感 など |
人によって現れる症状の組み合わせや頻度・程度はさまざまです。症状が続く期間についても、数日で回復する人もいれば何カ月も続くケースもあります。特にホルモンの変化による影響を受けやすい時期には心身のバランスが乱れやすく、不調を感じる頻度が高くなる傾向があります。
3.「なんとなく不調」の考えられる原因
なんとなく不調の原因は、1つに絞れないことがほとんどです。生活環境やライフステージの変化、心身の状態などさまざまな要因が複雑に絡み合うことで現れることが多く、根本的な要因を特定するのは容易ではありません。
<なんとなく不調で考えられる主な原因>
| 原因 | 詳細 | 関連する症状の例 |
|---|---|---|
| 自律神経の乱れ | 交感神経と副交感神経のバランスが崩れることによる反応 | 倦怠感/めまい/頭痛/胃腸の不調/不眠 など |
| 鉄不足 | ヘモグロビンは正常でも、体内の貯蔵鉄が不足している状態 | 疲れやすい/集中力の低下/頭痛/動悸 など |
| ホルモンバランスの変化 | PMS(月経前症候群)や更年期、甲状腺異常などの影響 | 不眠/気分の落ち込み/イライラ/だるさ/意欲の低下/不安感/疲労感 など |
| ストレス・心理的要因 | 精神的負荷が身体症状として現れることがある | 頭痛/不眠/吐き気/過食・拒食 など |
| 生活習慣や環境による要因 | 睡眠・食事・運動・働き方などの日常リズムの崩れ、引っ越し・転職などの環境変化、結婚・出産・子育て、親の介護・看取り、孤独感や喪失体験 など | 心身のさまざまな不調 |
| 季節や気候の変化による影響 | 気温・湿度・気圧の変化による自律神経への刺激 | だるさ/頭痛/疲労感/めまい など |
同じような症状でも、人によって背景にある原因は異なります。自分の状態を客観的に見つめ直すことが大切です。ここからは、なんとなく不調の主な原因と症状について詳しく見ていきましょう。
自律神経の乱れ
何となく不調の大きな要因として、多く挙げられるのが自律神経の乱れです。自律神経には、緊張を促す交感神経とリラックスを促す副交感神経があり、このバランスが崩れることで心身にさまざまな不調が現れるとされています。
自律神経は、季節の変わり目や気圧の変化、ストレスなどによって乱れることがあります。例えば、季節の変わり目に頭痛やめまい、胃腸の不調、倦怠感、不眠などの症状が出た場合、自律神経の乱れが原因かもしれません。
鉄不足
特に女性に多く見られる要因の1つが、体内の鉄分不足です。鉄は血液中のヘモグロビンの材料として、酸素を全身に運ぶ大切な役割を担っています。
体内の鉄が不足すると、疲れやすさや集中力の低下、動悸、頭痛などが起こりやすくなります。また、血液検査の結果ヘモグロビン値が正常でも、体内の貯蔵鉄量を示す「フェリチン」の値が低いと鉄不足の影響が出ることがあるため注意が必要です。健康診断などで鉄不足を見逃さないためには、フェリチン値もチェックしておきましょう 。
ホルモンバランスの変化
女性の場合、生理前のPMS(月経前症候群)や更年期にさしかかる40~50代の女性に見られるエストロゲンの減少などが、気分の落ち込みや身体のだるさ、不眠といった症状につながることがあります。また、10~30代でも、甲状腺ホルモンの異常などにより同様の症状があらわれることもあります。
ホルモンバランスの変化によるなんとなく不調は、男性にも起こり得るものです。加齢とともにテストステロン(男性ホルモン)が低下すると、いわゆる男性更年期障害(LOH症候群)を引き起こすことがあります。男性更年期障害では、イライラや意欲の低下、疲労感、不眠、不安感などの症状がみられます。
<関連記事>PMSによる生理前のイライラ|症状を抑える方法や対策【医師監修】
ストレス・心理的要因
仕事や人間関係、家庭での役割など、多くの人が何らかのストレスを抱えています。ストレスを感じると、脳が緊張状態になり、自律神経のバランスが崩れやすくなります。その結果として現れるのが、頭痛や吐き気、過食・拒食、不眠といった心身の変調です。ストレスは目に見えにくいため、原因に気づかないまま不調が長引いてしまうことも少なくありません。
<関連記事>頭痛の原因はストレス?原因やメカニズム、予防法を解説【医師監修】
生活習慣や環境による要因
日々の生活の中にある習慣や環境の変化も、身体やこころに大きな影響を与えます。
| 生活習慣による要因 | 環境による要因 |
|---|---|
| 睡眠不足 | 引っ越し/転職などの環境変化 |
| 栄養バランスの偏り | 結婚/出産/子育て |
| 運動不足 | 親の介護/看取り |
| カフェイン・アルコールの摂りすぎ | 孤独感や喪失体験 |
些細な習慣の積み重ねや人生の節目で訪れるライフイベントによって心身のバランスが崩れ、それが不調につながることがあります。気づきにくい原因でもあるため、自分の生活を見直すことが重要です。
季節や気候の変化による影響
季節の変わり目に体調を崩しやすい人は、気候の変化による影響を受けやすいタイプかもしれません。気圧や湿度、気温の変動にうまく適応できないときには、自律神経の調節がうまくいかずにさまざまな不調が現れることもあります。
これらの不調は「気象病」とも呼ばれており、天気が崩れるときだけでなく、季節の変わり目にも生じやすいとされています。気象病の1つである「寒暖差疲労」では、急な温度変化に体が適応できず自律神経に負担がかかることで、疲労感やだるさ、めまい、頭痛などの症状が現れます。
気候の変化による影響は人によって感じやすさが異なるため、日頃から自身の傾向を把握しておくことも大切です。
4.自分でできる「なんとなく不調」の対処法
なんとなく不調を感じたとき、「病院に行くほどではないから」と我慢してしまう方もいるでしょう。身体とこころは密接につながっており、毎日の過ごし方が少し変わるだけでも不調の感じ方が和らぐことがあります。ここでは、誰でもすぐに始められるセルフケアの方法をご紹介します。
運動する
適度な運動は、心身の健康を保つための重要な手段です。運動によって血流が促され、自律神経の働きが整うほか、脳内に「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが分泌され、気分の落ち込みやストレスの緩和にもつながります。
特別なスポーツを始める必要はありません。次のような軽い運動を、無理のない範囲で取り入れてみましょう。
| 取り入れやすい運動 | ポイント |
|---|---|
| ウォーキング | 1日20〜30分程度を目安に。朝の光を浴びると体内リズムが整いやすくなります。 |
| ストレッチ | 筋肉をやさしく伸ばし、緊張をほぐす効果があります。就寝前にもおすすめです。 |
| リズム運動 | ダンスなどのリズム運動はセロトニンの活性を高めるとされています。咀嚼もリズム運動の1つで、ガムを噛むことも有効です。 |
質の良い睡眠をとる
質の良い睡眠は、不調から回復するための基本です。眠っている間に分泌されるホルモンには、心身の修復や自律神経のバランス調整に関与するものも多く、睡眠の乱れはそのまま体調不良へとつながる可能性があります。
以下のようなポイントを意識して、睡眠の質を高めてみましょう。
- 起床・就寝時間を一定にして、体内時計を整える。
- ブルーライトによる覚醒を避けるため、就寝1時間前はスマートフォンやパソコンを避ける。
- 就寝前の入浴やストレッチで副交感神経を優位にして、自然な眠気を促す。
十分な睡眠をとることができれば、体力の回復や翌日の気力・気分の向上も期待できます。
栄養バランスの良い食事を摂る
食事は、私たちの身体をつくるだけでなく、こころにも大きな影響を与えます。鉄やビタミン、ミネラル、タンパク質などを十分に摂りましょう。次の栄養素を摂れるように意識して食事をすることが大切です。
| 栄養素 | 期待される効果 | 多く含まれる食材 |
|---|---|---|
| 鉄分 | 疲労感の改善、めまい予防 | レバー/あさり/納豆/ひじき |
| ビタミンB群 | 神経の働きを助け、イライラを抑える、疲労回復 | 豚肉/玄米/卵/豆類 |
| ビタミンC | ストレスに対抗するホルモンの生成をサポート | ピーマン/ブロッコリー/いちご |
| タンパク質 | 身体の修復、免疫力の維持 | 鶏むね肉/魚/豆腐/卵 |
また、暴飲暴食や偏食は避け、1日3食を規則正しく摂りましょう。
湯船にゆっくり浸かる
シャワーだけで済ませず、湯船にゆっくり浸かることも重要です。38〜40℃のぬるめのお湯に浸かることで、筋肉の緊張がゆるみ、自律神経のバランスが整いやすくなります。
また、温浴効果による血流の改善で、冷えや肩こり、疲労感の軽減が期待できます。入浴時にはお気に入りの入浴剤を使い、静かな音楽をかけるなど、自分なりのリラックス時間として活用するのもおすすめです。これらセルフケアは、できることから少しずつ取り入れていきましょう。
5.「なんとなく不調」から疑われる病気
だるさや頭痛、気分の落ち込みなど、よくある不調の裏側に、思わぬ病気が隠れているケースもあります。「これくらいなら大丈夫」「みんなも同じだろう」と我慢を続けているうちに、症状が慢性化したり、生活に支障が出たりすることも少なくありません。
以下に、なんとなく不調の影に隠れていることがある主な病気と、その特徴をまとめました。
| 疑われる病気 | 主な症状 | 不調との関連性 |
|---|---|---|
| 鉄欠乏性貧血 | 疲れやすい/めまい/動悸/顔色が悪い など | 鉄不足により全身に酸素が行き渡らず、慢性的な倦怠感や頭痛につながる |
| うつ病や不安障害 | 気分の落ち込み/やる気が出ない/眠れない/倦怠感/食欲不振/頭痛/肩こり/動悸 など | 精神的なストレスや環境変化によって発症しやすく、不調として現れやすい |
| PMS(月経前症候群) | 腹痛/頭痛/イライラ/情緒不安定 など | 月経前にホルモンバランスが崩れ、心身に不調が出やすくなる |
| 子宮筋腫・子宮内膜症 | 腹部の張り/重い生理/貧血/下腹部痛 など | 月経異常や鉄不足による不調が現れ、放置すると悪化することも |
| 更年期障害 | ほてり/発汗/不安感/眠れない/疲れやすい など | ホルモンの急激な変化により、心身のバランスが乱れやすくなる |
| 甲状腺機能の異常 | 倦怠感/むくみ/体重減少/多汗/不眠 など | 甲状腺ホルモンの不足や過剰な分泌によって症状が引き起こされる |
| 脳の病気(脳梗塞・脳腫瘍など) | 頭痛/しびれ/視野の異常/めまい など | 稀ではあるが、症状がなんとなく感じる違和感から始まる場合もある |
どの病気も、初期の段階では病気とは感じられない程度の症状であることが多いです。女性の場合は、月経周期や更年期などによる体調の変化と重なることで見過ごされてしまうこともあります。
精神的な疲労やストレスによる不調と、内科的な病気による不調が重なっているケースもあるようです。セルフケアだけでは改善しない、もしくは同じような不調が繰り返し起きる場合には、一度医療機関に相談してみることが大切です。
6.「なんとなく不調」を感じたら我慢せず専門家へ相談を
日常生活の中で感じる「なんとなく不調」は、誰にでも起こり得るものです。なんとなく不調を放置していると、心身のバランスがますます崩れてしまうこともあります。
医療機関に加え、薬剤師や保健師、カウンセラーなど、専門的な知見をもった相談先は多くあります。病院に行くほどではないと感じる不調でも、気軽に話を聞いてもらえる場所があることを知っておくだけで気持ちが軽くなることもあるでしょう。
心身の不調が続いているときには一人で抱え込まず、専門家のサポートを受けながら自分に合ったペースで改善に向けたケアを行うことが大切です。
<編集部より>
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<<監修者プロフィール>>
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
寺内 公一
医学博士。更年期障害や閉経後骨粗鬆症の診療・研究に従事。中高年女性に多い抑うつ・不安・不眠といった症状の特性と対応、加齢に伴う身体的・精神的機能の変化、さらに食品・薬品やその生理活性物質が及ぼす影響について、多角的に研究を進めている。
●資格
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医
日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医・指導医
日本女性心身医学会認定医
北米閉経学会(NAMS)認定医
日本骨粗鬆症学会認定医
日本抗加齢医学会専門医
※当記事は、2025年12月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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