近年、「プレコンセプションケア」という言葉が注目されています。プレコンセプションケアとは、将来、子どもを持ちたい人もそうでない人も、自分自身の健康を見据えて、性別を問わず健康管理に取り組むことです。今回は、プレコンセプションケアの重要性、若いうちから意識したい生活習慣、カップルで取り組むポイントを解説します。
目次
1.将来の健康と妊娠のための「プレコンセプションケア」とは
子ども家庭庁によると、プレコンセプションケア(以下、プレコン)とは、「性別を問わず、適切な時期に、性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う取り組み」のことです。プレコンには、適切な体重管理、葉酸など必要な栄養素の摂取、生活習慣病予防などが含まれます。最近では国の政策としても重視されており、企業でも取り組みが広がっています。
たとえ現時点で妊娠や出産を考えていなくても、プレコンに取り組むことは将来の生活習慣病の予防など健康維持につながります。妊娠・出産の有無に関係なく、将来の健康を守ることはより豊かな人生を送るためにも重要です。
なお、プレコンは女性だけでなく男性も対象となります。男性の生活習慣も妊娠のしやすさや胎児の健康に影響するため、性別にかかわらず、日頃から健康な体づくりを意識することが大切です。
2.ライフプランのために考えよう 年齢と妊娠の話
将来、結婚するかどうか、子どもを持つかどうかなど、人生にはさまざまな選択肢があります。どの選択肢を選ぶのかは個人の自由であり、その選択は尊重されるべきものです。ですが、将来子どもを持つことを少しでも考えているのなら、妊よう性(妊娠する力)と年齢との関係性を知っておく必要があります。
女性も男性も加齢とともに、妊よう性は衰えていきます。女性の場合は、年齢とともに卵子の数は減少していき、卵子自体の質も低下していきます。それにより、特に35歳を過ぎると妊娠率は低下していき、40代になるとその傾向は強くなるのです。男性においても35歳を過ぎると精子の数や質が徐々に低下していくことが分かっています。
そのため、早いうちから結婚、妊娠・出産などのライフイベントについて、きちんと向き合い将来の計画を立てていくことが大切です。
3.将来の妊娠に影響する「やせ」のリスク
やせも肥満も不妊や早産、難産などのリスクを高めるため、日頃から標準的な体重を意識することが必要です。女性の方は肥満を警戒する場合が多いかもしれません。しかし、日本では妊娠適齢期の女性は、肥満よりやせのほうが多くを占めているとされています。厚生労働省の「令和6年 国民健康・栄養調査」によれば、20~30代女性の9.8%が肥満(BMI 25以上)であるのに対して、16.6%がやせ(BMI 18.5未満)の状態です。
やせの状態が長く続くと、体内の栄養が不足することで、貧血や骨粗しょう症、摂食障害などの症状を引き起こすことがあります。加えて、女性ホルモンが正常に分泌されなくなり、月経異常や無月経、不妊などの原因となることもあるのです。
さらに、やせている女性は妊娠中、胎児の成長に必要な栄養が不足しやすくなるため、早産や低出生体重児(2,500g未満)を出産するリスクが高くなります。あまり知られていないものの、低出生体重児は、中高年になってから糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞など生活習慣病を発症しやすくなるのです。栄養不足の母体で育つ胎児は、少ない栄養でも生き延びるために栄養をため込みやすい体質が形成されます。そのため、低体重の赤ちゃんは標準体重で生まれた赤ちゃんと比べると、栄養過多となって小児肥満を起こしやすくなり、やがて生活習慣病にかかりやすくなるのです。
母子ともに健康な出産をするためにも、妊娠する前の時期から栄養を十分に取って、適正な体重(BMI 18.5以上25未満)を維持することが大切です。BMIは、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」の計算で割り出すことができます。過度なダイエットや偏食は避け、主食・主菜・副菜を組み合わせた栄養バランスのいい食事を、1日3食規則正しく取ることを心掛けてください。
また、筋肉量や骨密度を維持するためには適度な運動も欠かせません。ウォーキングなどの運動を1日60分以上行うとともに、週に2~3回程度の筋力トレーニングを行うことが推奨されています。まずは、1日10分多く体を動かすことを意識して、無理のない範囲でできることから始めてみましょう。
4.今から始めたいプレコン習慣
プレコンは、特別な準備を一度に始めるものではなく、毎日の生活の中で少しずつ健康を整えていく取り組みです。ここでは、今日から取り入れやすい主なポイントを解説していきます。
●妊娠前から葉酸を意識しよう
葉酸とはビタミンBの一種であり、胎児の脳や脊髄のもととなる神経管を形成するために不可欠な栄養素です。妊娠初期の段階で葉酸が不足していると、「神経管閉鎖障害」を引き起こすことがあります。神経管閉鎖障害とは「神経管」が正常に閉じないことで起こる先天異常で、赤ちゃんの筋力低下や神経のまひによる歩行困難などの障害を引き起こすことがあります。葉酸はほうれん草やブロッコリー、レバーなどの食べ物に多く含まれていますが、食事だけで必要量の葉酸を摂取することは困難です。妊娠が成立する1か月以上前から、普段の食事と葉酸サプリで400μg/日の葉酸を摂取することが必要です。
●禁煙・禁酒を心掛ける
妊娠中にお酒を飲むと、アルコールが胎児にも影響し、顔面の奇形や、脳障害などを引き起こす「胎児性アルコール症候群」の原因になります。普段からお酒はほどほどにして、妊娠を希望する段階や妊娠中は禁酒をしましょう。
また、喫煙は性別にかかわらず不妊の原因となります。さらに、妊娠中の喫煙・受動喫煙は流産・早産、低出生体重児の出産などのリスクを高めます。そのため、女性だけでなくパートナーの男性も禁煙に取り組むことが大切です。禁煙治療は、特定の要件を満たすと健康保険が適用されます。必要に応じて、禁煙外来を利用することも検討してみてはいかがでしょうか。
●日頃から健康状態を確認する
高血圧や糖尿病といった生活習慣病は、不妊や流産・死産、赤ちゃんの先天性障害の要因となります。健診で血糖値や血圧などの体の状態を定期的にチェックすることが、生活習慣病予防の第一歩です。
また、乳がんや子宮頸がんといった女性のがんは、20代から増え始めます。特に、子宮頸がんは20代から30代の女性で、最も罹患する人が多いがんともいわれているため注意が必要です。ほとんどの市区町村では、がん検診の費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担でがん検診を受けることができます。まずは、お住まいの自治体のWebサイトなどで確認してみましょう。
●性感染症の対策をする
梅毒などの性感染症の中には放置すると不妊の原因となったり、流産・早産につながったりするものがあります。さらに、母子感染すると、将来的に赤ちゃんの骨や視覚・聴覚に悪影響を及ぼす病気を引き起こす場合があります。無防備な性交渉は避け、気になる症状がある場合には医療機関を受診して、パートナーとともにしっかりと治療することが重要です。性感染症の中には自覚症状が少ないものもあるので注意が必要です。性感染症の検査は、婦人科・泌尿器科などの医療機関や保健所で受けることができます。妊娠前にカップルで感染の有無を確認する検査を受けておきましょう。
●麻しん(はしか)・風しんに注意する
妊娠中に麻しんにかかると流産や早産を起こす可能性があります。また、風しんの場合は出生児の目や耳、心臓に障害の出る「先天性風しん症候群」を発症する可能性があるため、特に注意が必要です。麻しん・風しんはMRワクチンで感染予防が可能ですので、ワクチンの接種を受けておきましょう。ただし、妊娠中の方はワクチン接種ができません。妊娠を考える女性はもちろんですが、妊娠中の女性と同居するご家族・パートナーの男性も早めに抗体検査やワクチン接種を受けて、妊娠している女性への感染を防ぐことが大切です。
5.プレコンはカップルで取り組もう
プレコンはパートナーである男性も取り組んでいかなければなりません。不妊は女性だけの問題だと思われがちですが、WHOの調査によると、不妊の原因の約半分が男性に関連しています。喫煙や過度な飲酒、肥満や睡眠不足・運動不足といった習慣は精子の質を低下させ、不妊の原因となります。そのため、日頃から健康的な生活習慣を心掛けましょう。
また、精子は熱に弱い性質があります。そのため以下のような習慣は、精巣を温め精子の質を低下させるため注意が必要です。
- 長時間サウナに入ったり、熱いお風呂につかる
- 強い締め付けの下着を着用する
- 膝の上にノートパソコンを置いた状態で作業をする
- 長時間、座ったままの状態でいる(下腹部に熱がこもりやすくなるため)
6.最後に
働く女性が増え、生き方も多様化していく中で、プレコンの重要性は日々、高まっています。早いうちから健康や出産に関する正しい知識を持ち、自分に適した健康管理を意識することで、将来の健康を増進するとともに、望む人は妊娠・出産への適切な準備ができるようになります。
妊娠・出産は男性にとっても人生において重要な出来事です。パートナーと助け合いながら、二人で向き合うことが大切です。
自分の健康のため、そして将来生まれてくるかもしれない自分たちの赤ちゃんのため、できることから着実にプレコンに取り組んでいきましょう。
原稿・社会保険研究所Copyright
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<編集部より>
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※当記事は、2026年8月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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