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モチベーションを上げる方法とは?モチベーションアップの方法とビジネス面でのメリット【専門家インタビュー】
公開日:2024.03.14
仕事に対するモチベーションがなかなか上がらない、目標を立ててもやる気が続かないなど、働くうえでのモチベーションアップや維持の方法に悩むことは、誰しも思い当たる節があるのではないでしょうか。最近ではキャリア自律、ワーク・エンゲイジメントなど、仕事に対してポジティブな姿勢で取り組むことを指す言葉が注目されています。今回はモチベーションアップの方法について、キャリアコンサルティングチームMAKANAの代表であり、公認心理師の資格を持つ野村式栄氏にお話を聞きました。
目次
モチベーションを語る際、目的や目標、方向性をセットで考える
――「モチベーション」という言葉の意味について、野村さんはご講演やカウンセリングでどのように説明されているのでしょうか。
一般的にモチベーションは「動機づけ」と訳されます。しかし、普段の会話では「動機づけ」という言葉はなかなか使いません。「やる気」「意欲」というような、みなさんがよく使う言葉の意味で考えていただくとわかりやすいと思います。講義やカウンセリングでもそのようにお話ししています。
――モチベーションアップとは、どのような状態を表すのでしょうか。
モチベーションが上がっている、つまりモチベーションアップしている状態とは、「目標が何かあり、なぜその目標を達成しなければならないのか、達成すると自分にとってどのような『いいこと(メリットやゴールイメージ)』があるのか、そしてどのように達成するか、といった目的や方向性を持って、目標に向かって自ら行動を起こし続けること」ができている状態だと考えています。モチベーションを語るうえで、目的や目標が自分のなかできちんと腹落ちしているか、そこに向けた具体的な行動が1つでも見つかっているかが重要です。目標に向けて動くなかで、行動の内容や手段が変わるのはよくあることです。また、目標は自分のためでも、他者のためでもどちらでもかまいません。
――目標は現実的なほうがいいのでしょうか。それともあえて大きな目標のほうがいいのでしょうか。
好みが分かれるところだと思います。大きな目標のほうがやる気が出る方もいれば、「いやいや、それは無理だよ」と自信がなくなってしまう方もいるので、どちらが合うのかは人によって異なるかもしれません。たとえば企業さんで講演をしていると、「将来社長になりたい」「カフェを開きたい」など、現状とはまったく異なる目標や夢を持っている若い方も少なくありません。ただ、大きな夢を一足飛びにかなえるのは大変です。目標の実現までモチベーションを維持していくためには、プロセスや上る段差一つずつを小さくするといいと思います。まずは現在の会社でできること、その次に「こういう経験ができたらいいな」という小さな目標を立てる、といったように、目標を積み上げながら細かく設定するとモチベーションが上がりやすくなります。
目標に対するプロセスも自分に合っているか、楽しめているかが大切
――モチベーションアップや目標の達成に関して、具体的にどのようなプロセスをイメージするといいのでしょうか。
例えば1年の初めに「今年こそ3kg痩せる!」というような目標を立てるとします。しかし、数ヶ月すると忘れてしまいますよね。それは、先ほどもお話ししたように何のために、なぜその目標を達成しなければならないのか、目的や方向性が不透明になっているからです。目標が「自分に自信をつけたい」、「自分の好きな服や水着を着たい」など、なぜやるのかが明確であればやる気に繋がります。ただ単に3kg痩せることだけを目標として考えていると、そもそも何のためにやるのかという認識がずれてきてしまい、もともとの目標も忘れ去られてしまうわけです。また、もう少し踏み込んで考えると、そもそも「マイナス3kg」という数字を目標としていいのか、「お腹をへこませる」、「ウエストを〇cmにする」などの目標のほうがいいのかは、目的や方向性によっても変わってきます。
――仕事の場面に置き換えるとどうなるでしょうか。
仕事をするうえで好きな作業とそうではない作業とがあると思いますが、モチベーションがアップしている状態だと、仕事の目標に対するプロセス自体を楽しめているのがわかりやすいかもしれないですね。
最近では「キャリア自律」という言葉があります。終身雇用ではなくキャリアを重ねるために転職することも当たり前になってきました。現在の会社でキャリアをどう積んでいくか、そもそも自分はどういう人生を歩みたいのか、仕事だけではなく私生活も含めてどのような人になりたいのかなどを考えて、自主的に経験を積んでキャリアを作っていくのがトレンドになっています。
さまざまなプロセスや方法を試してみるなかで、自分に合っている方法を見つけることも重要で、プロセス自体も楽しめていないと長続きしません。そこでも大切なのは目的や目標、方向性です。
――反対に、モチベーションがダウンしている状態については何か特徴はありますか。プロセス自体をつらく感じてしまうのでしょうか。
モチベーションダウンはプロセス自体をつらく感じるというより、目標が腹落ちされていない、またはずれてしまっている状態です。プロセスが多少大変であっても、目標がずれていなければ頑張れると思います。ですが自分の「こうありたい」という姿がわからなくなっている場合には、そもそもの目標やそこに向けた行動が見つかっていない、行動する自信がないなど、方向性が歪んでしまっている可能性もあります。
ときには人に協力してもらう、書くことで思考を整理する
――目標や方向性がずれている場合、自分で気づくことはできるのでしょうか。
そうした自己分析がお好きな方もいらっしゃるとは思いますが、苦手な方の場合は人に協力してもらうという方法が1つあります。例えば、ご友人やご家族で話を聞くのが上手な方、相手の話を引き出すのが得意な方に話をするのもいいでしょう。自分一人で考えると行き詰まってしまうことがあるので、他者に話をして自分自身が発した言葉をあらためて聞くことによって、「自分はこのようなことを考えていたんだ」と気づくことができます。また、自分からは見えないけれど、他者からはよく見えるところに気づくこともあります。
ただ、注意してほしいこととして、的確なアドバイスをくれる方よりも、聞き上手で問いを投げかけてくれる方のほうがいいと思います。アドバイスをもらって行動しても、自分の考えとマッチしないと「あの人が言ったからうまくいかなかった」と後悔することになりかねません。話を聞いてもらうなら、話を自分ごととして考えながら耳を傾けてくれる方がいいですね。ご友人やご家族に限らず、私のようなキャリアコンサルタントやカウンセラーなどのプロの力を借りることも1つの手です。何度同じ話をしても嫌がられず、話を聞く、引き出す訓練を受けているので、ときには頼ってみてもいいでしょう。
――なかには人に相談するのが苦手な方や、そもそも相談しにくい話などもあると思います。そうした場合にはメモに書き出して一人で整理するなども有効なのでしょうか。
そうですね。今考えていること、現状の問題・課題などを書き出すのもいい方法です。頭のなかだけで考えていると、言語化できていないことが多いので、曖昧な状態で終わってモヤモヤしてしまうことがあります。モヤモヤを明確にするためには、最初から綺麗に言葉にできなくとも、話すのと同じように文字にしてアウトプットすることで、またあらためて読むことで「自分はこう思っていたんだ」と気づくことができます。
これは私のやり方ではありますが、リラックスしているときにあれこれ思い浮かぶことが多いので、いつもお風呂場やベッドサイドにメモ帳を置いています。そして何か思い浮かんだときにメモを取って、あとで読み返して思考を整理することもあるんです。おすすめですよ。
意識を変えるのではなく、環境を変えること
――モチベーションアップ、維持する方法で他に注意すべきことはありますか。
「常にモチベーションは高くなくてはならない」と思い込んでいる方は多いかもしれません。しかしその状態を維持しようとすると、大事なときにエネルギーが足らず、目標を見失ってしまう原因になります。車のアクセルを全開にしたままではエンジンに負担がかかってしまうのと同じです。ここぞというときにパワーを発揮できるように、スイッチの切り替えを自分でマネジメントすることが大切です。
やる気が十分にあるときは、熱中していて食事をとるのを忘れてしまったり、睡眠を疎かにしたりすることもあるかもしれませんが、その状態が続くと身体も脳も疲弊してしまいます。1日の終わりには必ずしっかりと休養する、自分が好きなことをする時間を楽しむなど、オンオフを分けることは必要だと思います。特にここ数年はリモートワークの普及によって自宅で仕事をしている方も多いでしょうから、仕事の時間が近づいたら着替えをする、少し化粧をするなど身だしなみを整える、書斎やカフェのように集中できる空間に移るなど、時間や空間の切り替えもいいですね。
――なるほど。時間や空間を決めてオンオフを切り替えるのはわかりやすいですね。
これについては、よく誤解されていることがあります。多くの方が、意識を変えると行動が変わってさまざまなことができるようになると思われているかもしれませんが、本来は逆です。環境を変えると行動が変わって、意識が変わるんですね。そのため、オンオフを切り替える方法も自分が意識してやるよりも、タイマーを使って時間を区切る、パソコンを閉じて書斎から出る、リビングにパソコンを持ち込まないなどのように、環境を変えたほうがいいです。
また、モチベーションを維持することでいえば、仕事の場合だと目標である頂上ばかりを目指して、頑張り続けて疲弊してしまう方も多いと思います。しかし、これまで自分がやってきたこと、できるようになったことなどを振り返り、次に活かす場面が来たときにアクセルを踏み込めるようにすることも大切です。そうしたことも含めて、スイッチを切り替えながら長期的にモチベーションを維持できるといいですね。
――これまでの自分を振り返って次に活かすことも大切ですね。モチベーションをアップしたい方に向けて、最後にメッセージをお願いします。
職場の上司からの評価が気になったり、好きではない作業を任されてしまったり、他にも子育てなど自分ではどうにもできないことに直面したりなど、さまざまな状況に置かれている方がいると思います。そうしたときには、たとえ好きではない、得意ではない仕事であっても、「その仕事を選んで、続けてきたお給料以外の自分なりの理由」が少しでもあるはずです。その理由が見つかると、自分の仕事に対して少し違った見方が生まれるかもしれません。
また、やらなければいけないことと、やりたいことをまずは書き出して自覚してみましょう。そのうえで本当にやらなければいけないことばかりなのか、思考を整理してみるといいです。やらないこと・やらなくていいことがわかったら、次に優先順位を決めます。ここでやるべきこと・やりたいことの時間の確保を考えることができるはずです。そして、時間は作るものなので、1日のなかでまずは15分だけ、30分だけなど時間を確保して、やるべきこと・やりたいことをしてみましょう。ステップを1つずつ実践できるようになると、明日へのモチベーションに繋がります。
もし、子育てなどで忙しく今すぐに実行できなくても、「3年後には○○する」という目標を立てて、そのための準備期間としてネタを探しておくのもいいでしょう。ワインのように熟成させて、今はさまざまなことを見極める時期として情報収集をしてみてください。自分や周りの大切な人にきちんとエネルギーを注げるように、モチベーションをうまく活かせるといいですね。
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≪執筆者プロフィール≫
ライター・白石 弓夏(しらいし ゆみか)
看護師兼ライター。15年以上看護師として病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟で勤務中。
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インタビュイープロフィール
野村 式栄(のむら のりえ)
キャリアコンサルティングチームMAKANA代表
公認心理師(国家資格) キャリアコンサルタント(国家資格)
契約企業にて、ハラスメント社外相談窓口はじめ、メンタル及びキャリア相談や企業内研修活動を務める。Well-beingになるオリジナル手帳「ドロシー手帳」開発者。年間約300名のカウンセリングや2000名の研修を通して、働く人のWell-beingを高める活動をしている。
【著書】『人生の「快適」解をつかむ!3つの習慣 ~テレワーク時代のセルフマネジメント術~』(ごきげんビジネス出版)
※当記事内のインタビューは、2023年12月に行われたものです。
※当記事は、2024年3月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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