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HSPの特性とチェックリスト、日常生活で気を付けたいこと【専門家インタビュー】

公開日:2024.02.26

テレビや雑誌などで最近耳にするようになった、HSP(Highly Sensitive Person)。傷つきやすい気質であることから“繊細さん”という呼び名でも知られるようになりました。もしかしたら自分はHSPかもしれない、もしくは周りにHSPの人がいるかもしれないと気になる人もいるでしょう。HSPの特性やチェックリスト、日常生活や仕事の場面の対応で工夫できることなど、精神科医である渡邊真也先生にお話を聞きました。

HSPは繊細な性格の人、周りの人の気持ちを大切にできる優しい性格の人

――まず、HSPとはどのようなものなのでしょうか。渡邊先生は普段メンタルクリニックでの診療もされていますが、HSPのことを患者さんなどから聞かれた場合にはどのように説明されていますか?

「HSPは繊細な性格の人のことであり、病気ではない」といつもお伝えしています。時に傷つきやすい側面もありますが、周りの人の気持ちを大切にできる優しい性格の人で、そのご自身の性格を大事にしてくださいということも、あわせて必ずお伝えしています。

このようにお伝えすると、「自分はHSPかもしれない」「HSPとはどのようなものなのだろうか」と不安に思われて来院される方は、納得されたり、一安心されたりします。それでも「やっぱり生きづらいんです」とおっしゃる方もおられます。自分がHSPかどうか知りたいという目的でクリニックに来院された方には、基本的にHSPかそうではないかの確認だけでなく、あらゆる可能性を考え、問診や診察を通してその方の困りごとについて一緒に考えていきます。これは精神科医としての大事な役目です。

――HSPのよくある特性に関して、実際にはどのようなことで困っている方が多いのでしょうか。

HSPの一般的な特性としては、次のようなものがあります。

・大きな音や騒音などの刺激に敏感で疲れやすい
・人の気持ちに敏感で振り回されやすい
・強い光やにおいなど、あらゆる感覚がするどい
・考え方が複雑で、深く考えすぎてしまう

また、繊細であるがゆえの生きづらさや不安を訴えて来院される方が多いです。たとえば職場で自分がどう思われているか、自分の一言が誰かを傷つけたのではないか、また誰かに言われた一言がすごく気になってしまう、他人が叱られていても自分のことのように感じてしまうなど、人間関係に関する相談が多いように思います。

職場に限らず、学校や私生活において悩む方も多いようです。たとえばマンションで隣人の生活音が気になる場合、音に過敏になってしまって集中できない、家にいられないなど。ほかには、外に出ても強い光の刺激が気になってしまうなど、あらゆることを自分のなかでぐるぐると考えて悩みを抱え込んでしまい、クリニックに相談に来るケースも多いです。

関連記事:気疲れしやすい人とは?人付き合いが楽になる適切な対処法を紹介

HSPの認知度の高まりにより、世間の理解を得られることが大事

――HSPに関するご相談で、ここ数年でなにか大きく変わったことはありますか。

先ほどお話しした相談自体は、以前からもよくありました。しかし、ここ数年の変化でいえば、「HSP」という言葉が広く知られるようになり、その影響で「自分はHSPじゃないか」と相談に来られる方が増えているように思います。大事なのは、HSPという言葉や意味が世間に広まることによって、自分は病気なのではないかと思っていた方が、あくまで繊細な性格・傷つきやすいという特性なんだと気付き、安心して生きていけるようになることです。またはHSPのような特性を持つ方がいること、そうではない方がいることを同時に知る、これもとても大事です。HSPへの理解が広がることで、世間全体でその特性を理解し合って暮らしていけるようになるのであれば、とてもいいことだと思います。

一方で、精神科医である立場から考えると、HSPに合併するなにかしらの精神疾患や発達障がいなどがあるリスクは、もちろん看過できません。しかし、精神疾患や発達障がいなどとこのHSPの特性は一見して似ているように思う方もいるかもしれませんが、精神科の視点では別のものであるという認識でいます。ただ、専門的な知識がないと見落としてしまう可能性もあるのは確かなので、精神科医たちがしっかりと鑑別していく必要があると思います。

――HSPに合併しているなにかしらの精神疾患や発達障がいには、どのようなものがあるのでしょうか。

たとえば、うつ病や適応障がいが潜んでいる可能性もあります。うつ病や適応障がいは、多くは人間関係や環境の変化によるストレスから発症する病気です。適応障がいはうつ病の親戚のようなものではありますが、適応障がいのほうが少し症状が軽いイメージで考えてもらうとわかりやすいかもしれません。しかし、こうした精神疾患や発達障がいの有無は、HSPと直接的な関係はないと、精神科医として考えています。

一方でHSPの特性がある方は、そうではない方に比べて繊細であるがゆえにうつ病や適応障がいなどの精神疾患になりやすい傾向はあります。したがって、HSPに関するご相談で来られた方やHSPの特性がある方は、精神疾患の予防が重要であると考えています。うつ病や適応障がいに関することも含めて、自分ひとりで悩まずに、できれば私たち精神科医に相談していただけたらと思います。

――HSPのチェックリストはどのようなものがありますか。

日本版HSP尺度(HSPS-J19)というものがあります。しかし、実際には評価基準が複雑なため、これは「いくつ以上当てはまるとHSPだ」という明確な線引きではなく、あくまで目安のチェックリストです。HSPに関してはさまざまな尺度があります。参考として活用してください。

1「大きな音や雑然とした光景のような強い刺激がわずらわしいですか?」
2「大きな音で不快になりますか?」
3「一度にたくさんの事が起こっていると不快になりますか?」
4「いろいろなことが自分の周りで起きていると,不快な気分が高まりますか?」
5「明るい光や強いにおい,ごわごわした布地,近くのサイレンの音などにゾッとしやすいですか?」
6「忙しい日々が続くと,ベッドや暗くした部屋などプライバシーが得られ,刺激の少ない場所に逃げ込みたくなりますか?」
7「一度にたくさんのことを頼まれるとイライラしますか?」
8「短時間にしなければならないことが多いとオロオロしますか?」
9「他人の気分に左右されますか?」
10「ビクッとしやすいですか?」
11「競争場面や見られていると,緊張や同様のあまり,いつもの力を発揮できなくなりますか?」
12「強い刺激に圧倒されやすいですか?」
13「痛みに敏感になることがありますか?」
14「子供の頃,親や教師はあなたのことを「敏感だ」とか「内気だ」と見ていましたか?」
15「生活に変化があると混乱しますか?」
16「微細で繊細な香り・味・音・芸術作品などを好みますか?」
17「自分に対して誠実ですか?」
18「美術や音楽に深く感動しますか?」
19「豊かな内面生活を送っていますか?」

1~19の質問に対して
「1. まったくあてはまらない」
「2. ほとんどあてはまらない」
「3. あまりあてはまらない」
「4. どちらとも言えない」
「5. ややあてはまる」
「6. かなりあてはまる」
「7. 非常にあてはまる」
※出典:「」内(1~19の項目および1~7の尺度)、「髙橋亜希『Highly Sensitive Person Scale日本版(HSPS-J19)の作成』、2016年」p70~72より引用https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre/23/2/23_68/_pdf/-char/ja

――セルフチェックする際の注意点や、結果をどのように活用していくといいのか教えてください。

こちらのチェックリストは、通常のリラックスした精神状態で、あまり深く考えずにチェックすることが大事なポイントです。結果で気になること、相談したいことがあれば精神科医師にご相談ください。大切なのは、HSPの傾向があってもなくても、そのままの自分を認めて、ご自身の性格を大切にしてあげることです。

HSPの傾向がある場合の対処や工夫

――HSPの傾向がある場合、対処法として基本的にどのようなことを意識するといいのでしょうか。また仕事や日常生活の場面で注意することなどありますか。

まずは刺激となるもの(こと)から離れる、避けるなどの物理的な対処があります。音が気になる場合であれば、耳栓やイヤホンをつける、部屋を移動する。強い光が気になる場合はサングラスや日傘を使うなどです。ただ、こうした対処法は一時的なもので、制限が加えられるため窮屈に感じてしまうこともあります。ご自身でもある程度工夫できることも多いですが、職場における人間関係などの場合には、自分では対処が難しいこともあるかもしれません。

たとえば、職場で叱られている人がいて、自分のことのように感じてつらくなってしまう場合。精神科医として対応するのであれば、まずはどのような状況でどうつらいのか、しっかりと傾聴していきます。そして、繊細さ、優しさゆえの不安である場合には、「つらいとは思いますが、人に対する共感力がとても強いということ。それは素晴らしいことだと認識してあげてください。ただ、あまり無理はせず、刺激を遠ざけることも時には必要です」などのように、心配する必要はないとアドバイスしています。そのつらい状況に対して否定せず、ありのままの自分の特性を認めてあげること、ひとりで悩まないことなどがなによりも大切です。友人であったり、家族や恋人であったり、誰か相談できる人に少し話をしてみること、もしくは我々のような精神科医やカウンセラーなどに相談することもひとつの方法です。

――HSPの特性がある方で、うまく対策されている実際のエピソードなどはあるでしょうか。

個人の置かれた環境や状況、個人差があることで、ほかの精神疾患の有無なども影響していることではあるので、すべての方で同じように良くなるとは断言できないのですが、都会から引っ越して緑豊かな場所で暮らすようになって、心身ともに落ち着けるようになったという方はおられました。その方は都会のいろんな刺激に疲れてしまい、人間関係はもちろん音や光にも敏感でつらい思いをされていました。引っ越しをするというのは大きな出来事ではありますが、旅行など一時的にでも静かな場所で心身ともにリフレッシュするというのは、有効なのではないかと思います。

――HSPの傾向がある方に向けて、最後にメッセージをお願いします。

あらためて、まずHSPは病気ではないということは、みなさんにお伝えしていることです。そうした性格がある、気質があるということを知っていただくことによって、これまで自分は病気なのではないかと思っていた不安が払拭されるように、世間にもHSPが広く知られていくといいなと思っています。ただ、繰り返しになりますがHSPに合併している精神疾患がある可能性も考え、そこは我々精神科医が正確に鑑別していく必要があります。

それでもHSPの方の繊細な性格、傷つきやすい性格は、優しい性格であるというプラスの部分が大きいので、決してマイナスな性格ではないこともあわせてお話ししています。優しさゆえの傷つきやすさであること、それはご自身の特性として大事にしてほしいことです。そして、ひとりで悩まずに、まずは誰かに相談してみること、お互いに助け合って生きていきましょうということを、これからもしっかりとお伝えしていきたいです。

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≪執筆者プロフィール≫
ライター・白石 弓夏(しらいし ゆみか)
看護師兼ライター。15年以上看護師として病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟で勤務中。
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インタビュイープロフィール

渡邊 真也(わたなべ しんや)医師

精神保健指定医
品川メンタルクリニック 統括院長・本院院長

「うつ病」を中⼼に、「HSP」や「メンタルドック」など、時代のニーズにあった診療内容を取り⼊れ、⼟⽇祝も休まず診療。患者との信頼関係を最も⼤切にしながら、うつ病などでお悩みの⽅が気軽に安⼼して相談できるクリニックを⽬指している。

■経歴
2008年3⽉ ⼤分⼤学医学部卒業
2008年4⽉ 松阪市⺠病院初期研修
2010年4⽉ 松阪厚⽣病院勤務
2014 年4 ⽉ 品川メンタルクリニック(旧名称:新宿メンタルクリニック) アイランドタワー勤務
2016年4⽉ 品川メンタルクリニック(旧名称:新宿ストレスクリニック) 統括院⻑
2017年12⽉ 品川メンタルクリニック(旧名称:新宿ストレスクリニック) 統括院⻑・本院院⻑兼務

※当記事は、2024年2月に作成されたものです。
※当記事内のインタビューは、2023年12月に行われたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

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