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怒りの感情をコントロール!アンガーマネジメントの概要と実践方法【専門家インタビュー】

公開日:2024.02.15

職場や家庭で日常生活を送る日々のなかで、相手の何気ない一言や行動に、激しい怒りを抱いてしまったことはないでしょうか。怒りを原因にしたトラブルは後々の人間関係のためにも避けたいものです。日々起こる可能性がある怒りをいかにコントロールするかについて、アメリカ発祥のアンガーマネジメントを日本に導入し、関連する著作も多い日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介氏に話を聞きました。

「怒り」が起きる背景に「不安」がある

――現在、アンガーマネジメントが必要とされる社会的・時代的背景について教えてください。

アンガーマネジメントは、怒りと上手につきあうための心理トレーニングです。1970年代にアメリカで始まったとされています。日本では日本アンガーマネジメント協会が2011年に設立され、現在アンガーマネジメントという言葉自体は定着してきたかと思います。

なぜアンガーマネジメントが現代に求められているかですが、最近の大きな背景として、2020年からのコロナ禍があるのではないかと思います。実は怒りを構成する要素として、不安は非常に大きいものなのです。アメリカでアンガーマネジメントが本格的に普及したのは、2001年のアメリカ同時多発テロ事件の後の社会不安をきっかけとしているといわれています。

コロナ禍によって、人々は生活様式を大きく変えることになりました。私たちは大きな変化に対し不安を感じることがあります。新型コロナウイルス感染症の流行により、日常生活や働き方に多大な影響がありました。そして今度は、それらの変化したことがコロナ禍以前に戻ろうとしています。この数年はさまざまな変化の連続で、人々が今まで経験したことのない不安のなかにあったと思います。

このような不安に起因する怒りをどうコントロールするか、またはどう向き合うかという点でアンガーマネジメントが再注目されているのではないかと考えています。

「怒り」の仕組みはライターのようなもの

――怒りが起きる心理的メカニズムについて教えてください。

怒りの感情は、ライターの発火構造にたとえて説明することができます。ライターは火打石で火花を起こして、そこにガスを送り込むことで炎を上げますよね。まず炎を怒りと考えます。火打石で火花を起こすのは、私たち一人ひとりが信じている「~すべき」という願望や理想が裏切られる経験です。

そこに、先ほどお話しした不安をはじめ、つらい、苦しい、孤独だ、といった感情や、寝不足や空腹などで体調が悪い、といった、人にとってマイナスの状態がガスとなって送り込まれ、怒りという炎が上がるのです。


――ビジネスパーソンが日常遭遇しそうな具体的な状況にはどういったものがありますか?

ビジネスパーソンに起こりそうな例でいうと、些細な連絡ミスなどがあります。たとえば会議のスケジュールが決まっているのに、部下や同僚がその連絡をしなかった。自分としてはそういう時は「すぐに連絡すべき」と思っているわけです。そのため連絡されていないと「~すべき」が裏切られた状態になり、火花が出ることになります。

その連絡ミスの前に、何か上司から嫌なことを言われた、顧客からきついクレームを受けていたなどのストレスを感じておりマイナスな感情にとらわれていたとしたら、それがガスになり、怒りの炎が上がります。そして「どうして連絡しないんだ!」と周囲にきつく怒ってしまうことにつながるのです。

「怒りの6タイプ」を知って対策を

――怒りにはどういった種類のものがありますか?

怒りは、日本アンガーマネジメント協会の「アンガーマネジメント診断」で、6つのタイプ(※)に分けることができます。

1.熱血柴犬タイプ
もともとの性格として、正義や信念を強く持っていて、常にそれを貫こうとするところがあります。また、正義感・使命感が強いため、自分の信念に向かって突き進んでいくのが特徴で、自分のポリシーや考えを曲げないところがあります。そのため、他人の言動に相容れない点があると、必要以上に干渉しようとしてしまいます。


2.白黒パンダタイプ
好き嫌いや優劣など、何事にもはっきりと白黒をつけたがるタイプです。完璧主義でもあり、あらゆることに対して自分が納得してからでないと進めることができません。世の中に多く存在するグレーな物事に対して、はっきりとしないことにイライラしてしまうことが多くなります。


3.俺様ライオンタイプ
もともとプライドが高く、実際に仕事や地位でステータスを求めるリーダータイプです。自分自身の価値判断ができ、自分の力を信じて前向きに進む力がありますが、プライドが高いため、人からぞんざいな扱いを受けたり、軽く評価されたと感じると腹を立てます。また、他人からの評価を過剰に気にするところも見受けられます。

4.頑固ひつじタイプ
柔らかで穏やかに見られることが多いのですが、内には強いものを秘めており、外側の印象と実際の内面に差があります。人から誤解されやすいのもこのタイプです。また、独自のルールを持っており、自分だけでなく他人もそのルールや型にはめ込もうとする強情な部分もあります。「自分ルール」を尊重するあまり、人から頼まれたことなど気に入らないことをする場面では、非常に強いストレスを感じることがあります。

5.慎重うさぎタイプ
他人との衝突を回避する巧妙さと慎重さがあります。どのような相手とでも平等に接することができますが、逆に言えば、深いつながりを持たない、八方美人の一面もあるでしょう。また、人に心を開かないかわりに人を決めつけてレッテルを貼る傾向があります。その結果、人間関係にフラストレーションを感じることも多くなります。

6.自由ねこタイプ
率直な発言と行動によって自分の意見をはっきりと示すことができ、リーダーシップに長けている人物です。ただし自己主張が強いため、自分の主張や意見が受け入れられない状況に直面すると、大きなストレスやフラストレーションを感じることもあります。

(※)参考:安藤俊介『自分の「怒り」タイプを知ってコントロールする はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年

重要なことは、これらのタイプはいずれも誰しもが当てはまる部分もあり、明確にどのタイプと割り切れるものではないということです。また、どのタイプの傾向が強いからと言って、それがいけないということでもありません。あくまで怒りのタイプを「自分の癖」のようにつかみ、自身の怒りに対する対策を考えることが重要です。

アンガーマネジメントを実践するには

――アンガーマネジメントの具体的な実践方法について教えてください。

アンガーマネジメントにはいくつかの実践方法があります。まず「6秒ルール」というものがあります。アンガーマネジメントには、「衝動」「思考」「行動」の3つのコントロールという考え方があるのですが、6秒ルールは、「衝動のコントロール」に属します。人間は社会的動物であり、怒りのままに行動せず、理性が働いて社会的な反応をするのが本来の姿です。アンガーマネジメントでは、怒りが生まれてから理性が働くまで、6秒程度かかると考えます。この間に怒りの感情にとらわれず、まずは6秒待って、衝動的な行動をしないことが肝になります。

また、人に対して怒りを持った時に、その場にいて怒りが大きくなるのであれば、いったんその場から離れるというのも一つの方法です。ここで重要なのは、何も言わずに離れないようにすることです。周囲の人に「怒っていなくなってしまった」「逃げた」などの誤解を与えるためです。ですから「今は冷静に話せないから、5分後にもう1回ここに集まって話そう」といったルールを設けることも必要です。

他に、先ほどもお話しした自分が「~すべき」ととらわれていることにも注目してほしいと思います。それは自分の願望や理想として全否定するものではありませんが、必要に応じて、強く人に求めるものなのか、それとも緩めていいものなのか考えなくてはいけません。そこで私たちは、日常生活のなかで、怒りを感じた際にログ(記録)をとり、客観視することをすすめています。ログをとるのは、日時、出来事、思ったこと、感情、感情の強さ、行動、結果です。アンガーマネジメントの本質はこのリフレクション(内省)による自己理解にあると言ってもいいかもしれません。

――最後に、アンガーマネジメントを実践したいという人に向けて、メッセージをお願いします。

私がアンガーマネジメントを実践するようになって良かったことは、「怒りに振り回されず、やりたいことに集中できるようになった」ということです。また日本アンガーマネジメント協会でトレーニングを受けた方々からも、「仕事がうまくいくようになった」「人間関係が良くなった」というお声をいただくこともあります。

アンガーマネジメントはまずトレーニングをすることで上達します。日本アンガーマネジメント協会で正式なトレーニングを受けることもおすすめしますが、毎日コツコツと自分自身を見つめ直し、それをログに書き留めていくだけでかなり変わってくると思います。そのように怒りや感情を意識し始めて、自分自身で振り返りをしていけば1週間やっただけでも変わると考えています。

また非常に基本的なことではありますが、ライターのたとえのガスの部分である、「マイナスの状態」に陥らないよう、健康的な生活を送ること、具体的にはよく寝て、よく食べ、運動することも重要です。

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≪執筆者プロフィール≫
ライター・小南 哲司(こみなみ てつじ)
医療系出版社勤務を経て2022年よりライターに。医療分野の記事を中心に執筆。
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インタビュイープロフィール

安藤 俊介(あんどう しゅんすけ)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。新潟産業大学客員教授。
アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入した日本の第一人者。ナショナルアンガーマネジメント協会では15 名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアジア人としてただ一人選ばれている。
主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)等がある。著作はアメリカやアジア各国でも翻訳され累計78万部を超える。

参考

  • 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会
    https://www.angermanagement.co.jp/
  • 安藤俊介『アンガーマネジメント入門』朝日新聞出版、2016年
  • 安藤俊介『自分の「怒り」タイプを知ってコントロールする はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年

※当記事内のインタビューは、2023年12月に行われたものです。
※当記事は、2024年2月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

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