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がんと診断されたらどうすればいい?知っておきたい「がん患者の就労支援」

公開日:2023.08.25

がんと診断されたら、治療・入院や療養生活など不安は尽きないでしょう。近年の医療の発達により、早期に治療をすれば治るがんも増えてきました。とはいえ、治療のために仕事を休んだり辞めたりすることになれば、治療後の生活をどうするかも考える必要があります。今回は、厚生労働省が行っている取り組みや使える社会保障制度、新しく仕事を探す際の疑問について解説していきます。

1. 厚生労働省の長期療養者就職支援事業について

がんの治療をしながら仕事を続けている人は少なくありません。働き盛りの世代も多くがんに罹患しており、政府によるがん患者の就労支援が期待されていることが、世論調査でも明らかになっています。

実際に厚生労働省はさまざまな支援体制を構築しており、そのうちの1つが、長期療養者就職支援事業(がん患者等就職支援対策事業)です。

1.1 具体的な支援内

長期療養者就職支援事業の支援内容は3つあります。

①専門相談員による職業紹介・職業支援
経過観察や通院などの長期療養が必要な方を対象に、ハローワークで専門の相談員からの職業紹介を実施しています。

②がん診療連携拠点病院との連携
「がん相談支援センター」と連携して実施。患者同意の上で、治療状況・経過・今後配慮すべき点等の情報を共有し、療養状況や希望に応じた職業相談を実施しています。

③院内の出張相談
がん診療連携拠点病院などに入院中・受診時の職業相談ができるように、院内にカウンターを設けて出張相談を行っています。

1.2 支援対象

支援対象者は、がんをはじめ肝炎・糖尿病等の診断があり、長期の治療等のために離職や転職をする必要があった方かつ、就職を希望する方などです。

疾患を持ちながら在職中の場合でも、仕事の継続または退職に関する相談、専門家のアドバイスや支援を希望する方は対象となります。

2. 社会保障制

がんと診断された方や治療中の方が利用できる社会保障制度を紹介します。

2.1 高額療養費制

公的医療保険の対象となる医療費のうち、ひと月(月の1日~末日)に医療機関や薬局の窓口で支払った額が一定の金額を超えた場合に、超過金額が支給される制度です。

自己負担額である「一定の金額」は、年齢や所得に応じて上限が定められています。制度にあてはまる方で正確な上限額を知りたい場合には、加入している健康保険組合か、自治体の国民健康保険の窓口までお問い合わせください。

2.2 傷病手当

傷病手当金は、病気やケガによる休業中に、被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。被保険者が療養のために仕事を休んだことで、十分な給料・報酬を受けられない場合に支給されます。

以下の全ての条件を満たす場合に、支給を受けられます。(※1)

「①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること」
「②仕事に就くことができないこと」
「③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと」
「④休業した期間について給与の支払いがないこと」

【出典】
※1:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/

2.3 障害年

健康保険の傷病手当金を受けている方が対象です。病気・ケガによる療養中で障害年金の各等級に該当する方は、国民年金および厚生年金保険の障害年金を受給できる場合があります。

障害年金には2種類あります。1つは国民年金の障害基礎年金(1・2級)で、もう1つは厚生年金保険の障害厚生年金(1・2・3級)です。

障害年金の請求には、年金請求書と診断書、初診日を証明する書類が必要です。詳しい手続きや支給額については、年金事務所や年金相談センターに相談しましょう。

2.4 雇用保険基本手

雇用保険加入者が、定年・倒産・契約期間の満了などにより離職した場合に支給される手当です。失業保険とも呼ばれます。

受給できる期間は基本的には1年間と定められていますが、病気やケガなどで30日以上働けなくなった場合はその日数を延長でき、最長は3年間です。

支給額は1日当たりで算出されます。就労時の6ヶ月の総賃金(賞与は除く)を180で割った額の、5~8割の金額で設定されます。また年齢によって支給額の上限が決まっています。

受給要件は、以下を全て満たす場合です。
詳しい内容を知りたい場合には、ハローワークにお問い合わせください。

  1. 就職への積極的な意思がある。また就職可能な能力を持っているにもかかわらず、就職できない「失業の状態」にある。
  2. 離職日からさかのぼって2年以内の被保険者期間が、通算12ヶ月以上ある。  
      

3. 新しく仕事を探す際のQ&A

新しく仕事を探す上で、がんというハンディキャップがあることにより、就職活動がうまくいくか、就職後に問題なく働けるか不安になることもあるでしょう。よくある疑問を解説します。

3.1 採用面接時にがんの病歴を話す必要はありますか

自ら病歴を伝える必要はありません。就職活動において重要視されるのは、職務を遂行する能力です。
通院のために欠勤や遅刻・早退などが頻回になりそうな場合や、治療薬の副作用などで職務に影響が出る可能性がある場合など、また配慮が必要な場合などは申し出るといいでしょう。

3.2 がんの病歴を隠して採用されると、問題になることはありますか

その可能性はあるかもしれません。症状によって業務を確実かつ安全に遂行できないなど、場合によっては、就労に関わる重大な事実を偽ったとされる場合もあります。自身の病状や治療・副作用の状況などを鑑みて業務にあたることが大切です。

3.3 通院治療しながら仕事をしたいのですが、通院治療の必要性をどう伝えればいいですか

まずは主治医に相談しましょう。採用担当者が採用の可否を判断しやすいよう、通院が必要な期間や治療によって考えられる副作用など、具体的に説明する必要があります。その上で、通院のための欠勤・休暇をどう補うかということや、自身の長所や能力をアピールするといいでしょう。

4. 自分にあった社会支援を調べてみましょう

今回は、がんと診断されても自分らしく働くための支援について解説しました。がん患者を支援する制度は政府以外に、自治体や民間にもあります。医療機関のソーシャルワーカーに相談することもできます。利用できそうなものは何があるのか調べてみるといいでしょう。


<編集部より>
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≪執筆者プロフィール≫
訪問看護師ライター・那賀嶋幸恵(なかじまゆきえ)
新卒で急性期病院へ従事したのち、デイサービスや特別養護老人ホームなど様々な看護の場を経験。現在は訪問看護ステーションにて在宅医療の現場をみつつ、医療福祉のあり方を日々発信中。
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参考

※当記事は、2023年7月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

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