市区町村や自治体の事業としても行われている『がん検診』。全体的に身体の状態を確認する健康診断とは異なり、各種がんを発見する目的で実施されます。 今回はがん検診における検査の種類や対象の年齢、検査内容や受ける方法、結果の活用法などについて、ご紹介していきます。
目次
1.がん検診について
お住まいの市区町村や自治体などからお知らせなどが届く『がん検診』は、実際にどのような目的や種類があるのでしょうか。
1.1 がん検診の目的
日本人の死因の第1位である『がん』。日本人が一生のうちにがんと診断される確率は2人に1人ともいわれ、すべての人にとって他人事ではない病気です。国としてもさまざまな対策をとっている上、近年は診断と治療の進歩もあって、早期発見・早期治療できるがんもあります。
馴染みのある「健康診断」は、その人の健康状態を総合的に判断するものですが、「検診」は特定の病気を発見するための検査のことを指します。
そのため、がん検診ではがんがあるかないか、またはがんの前の段階となる状態のものがないかを早期に発見して治療することで、がんによる死亡を減らすことが目的となっています。
健康診断がきっかけで受けた精密検査によってがんが見つかることもありますが、健康診断では全身のさまざまな部位のがんに対応しきれているわけではありません。
がん検診はがんを見つけて早期に治療できるメリット(利益)が大きいですが、検査によってはがんがないのにがんがあるかもしれないと診断されるデメリット(不利益)の可能性も少なからずあります。
さらに、がんによっては症状がなく、検査ではわかりにくいものもあり、100%すべてのがんが見つかるわけではありません。
検診の際は、それらを前提として受けるようにしましょう。また、すでに症状がある場合には、検診ではなく、必ず医療機関を受診して適切な検査を受けてください。
1.2 がん検診の種類
がん検診の種類としては、まず国が推奨する5種類のがん検診があります。それが胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんです。
また、これらの他に、消化管がんの検診や総合がん検診などのようにいくつかの部位をまとめた検診も医療機関によってはあります。
がん検診はお住まいの市区町村や自治体から委託を受けた医療機関で受けることが可能です。
対象者全員が受診することができ、年齢や実施時期、検査を行う場所、費用負担は自治体によって異なります。詳しくは検診のお知らせの手紙を確認、または自治体のがん検診担当窓口にご確認ください。
2.各がん検診の検査内容と検査対象
それぞれのがん検診ではどのような検査が行われるのか、どのような人が対象となるのかご紹介します。
2.1 胃がん検診
・対象者:50歳以上(※当面は胃部X(エックス)線検査については40歳以上に対し実施可)
・検査項目:問診に加え、胃部X(エックス)線検査または胃内視鏡検査のいずれか
・受診間隔:原則として、2年に1回(※胃部X(エックス)線検査は年1回実施可)
胃部X(エックス)線検査は、胃を膨らませる発泡剤と造影剤(バリウム)を飲み、胃の中の粘膜を観察する検査です。検査台に乗り、身体の向きを何度か変えて連続してX(エックス)線撮影するもので、検査前に準備が必要です。検査当日は朝食が食べられません(午後から検査の場合、朝食は軽くする)。検査までに口から摂取できるのは水のみです。
胃内視鏡検査は、いわゆる胃カメラと呼ばれるもので、上部消化管内視鏡検査ともいわれています。口や鼻からチューブを挿入して胃の内部を観察します。検査前に喉や全身の麻酔を行うこともあるため、検査後数時間は安静にして、刺激が強い食事は控えるなど注意が必要です。
2.2 子宮頸がん検診
・対象者:20歳以上の女性
・検査項目:問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診
・受診間隔:原則として、2年に1回
子宮頸部の細胞診は、先端にブラシのついた専用の器具で子宮頸部(子宮の入り口)を擦って細胞を採取する検査です。月経中を避けて検査を実施します。
2.3 肺がん検診
・対象者:40歳以上
・検査項目:質問(問診)、胸部X(エックス)線検査および喀痰(かくたん)細胞診
※「喀痰細胞診は、質問の結果、原則として 50 歳以上で喫煙指数(1日本数×年数)が 600 以上であることが判明した者(過去における喫煙者を含む。)」(※1)に実施。
・受診間隔:原則として、年1回
喀痰細胞検査は上記の通りタバコをたくさん吸う人のみが対象で、X(エックス)線検査と組み合わせて行います。3日間、起床時に専用の容器に痰を入れて検査に出します。
【出典】
※1:厚生労働省「職域におけるがん検診に関するマニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000213286.pdf
2.4 乳がん検診
・対象者:40歳以上の女性
・検査項目:問診および乳房X(エックス)線検査(マンモグラフィ)
・受診間隔:原則として、2年に1回
マンモグラフィは乳房を片方ずつプラスティックの板に挟んだ状態でX(エックス)線撮影し、しこりや石灰化を見つける検査です。
2.5 大腸がん検診
・対象者:40歳以上
・検査項目:問診および便潜血(べんせんけつ)検査
・受診間隔:原則として、1年に1回
便潜血検査では2日分の便を採取し、便に混じった血液を調べます。潰瘍や腫瘍(ポリープやがん)があると、便に少量の血液が混じることがあるためです。健康診断や人間ドックなどでも行われています。
2.6 その他のがん検診
消化管がんの検診や総合がん検診のように、複数のがん検診を同時に行うものもあります。消化管がんの検診では、胃がんや大腸がんに加えて、肝臓や膵臓、胆のうなど消化器の検査を行うものです。医療機関によって検査項目はさまざまですが、がん検診の項目にオプションとして腹部超音波検査、大腸内視鏡検査などを組み合わせて行う場合もあります。
総合がん検診は胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんまでのがん検診を同時に実施するものです。これらの検査は事前準備や検査後に安静が必要なものも含まれるため、丸1日または1泊2日などで行われることがあります。
3.がん検診の結果とその後の過ごし方
がん検診を終え、その後結果が届いたあとにどのような流れになるのかをご紹介します。
3.1 がんの疑い、異常所見があった場合
がん検診の結果は医療機関などによって前後しますが、10日~1ヶ月以内には届きます。1度の検査でがんがわかるわけではなく、「精密検査が必要(要精検)」などの判定が出た場合、より詳しい検査が必要です。要精検とは、検査で異常がみられ、がんの疑いがあるという意味です。
がん検診の種類によって精密検査の方法が異なるため、精密検査を受ける医療機関については自治体や検診を受けた医療機関、かかりつけ医に相談するといいでしょう。
精密検査の結果、異常なし、または良性の病変だった場合には、経過観察や治療を進めます。その上で次回のがん検診を受ける流れです。
そして、詳しく検査した結果、がんが認められると診断された場合には、がんの治療を行います。
3.2 異常はみられなかったが、予防としてできること
がん検診の結果、異常なしだった場合、次回のがん検診を受ける間に予防としてできることもあります。
3.2.1 乳がんの予防「ブレスト・アウェアネス」
特に乳がんに関しては、視診・触診とセルフチェックできるのが特徴であるため、普段から意識することも大切です。ブレスト・アウェアネス「乳房を意識する生活習慣」(※2)というものもあります。女性が乳房の状態に日頃から関心を持つために、下記のような4つのポイント(※2)があります。
1)ご自分の乳房の状態を知る
2)乳房の変化に気をつける
3)変化に気づいたらすぐ医師へ相談する
4)40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける
【出典】
※2:国立がん研究センターがん情報サービス「乳がん検診について」
3.2.2 生活習慣を含めた予防
基本的ながんの予防としては、国立がん研究センターをはじめとする研究グループで定めたがん予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法(5+1)」(※3)というものがあります。
これは特定のがんの予防ではなく、多くの病気の予防、または高血圧や糖尿病などのような生活習慣病の予防にも役立ちます。このガイドラインでは、日本人のがんの予防にとって重要なのは、「『禁煙』『節酒』『食生活』『身体活動』『適性体重の維持』の5つの改善可能な生活習慣に、『感染』を加えた6つの要因」(※3)と定めています。
・禁煙、タバコは吸わない、受動喫煙を避ける
喫煙および受動喫煙は、肺がんをはじめ、食道がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、子宮頸がん、膀胱がんなど多くのがんに関連することがわかっています。
・節酒する
飲酒には肝細胞がん、食道がん、大腸がんなどの関連があるとされています。
1日あたり純エタノール量換算で23g程度までとしましょう。目安として「日本酒…1合、ビール大瓶(633ml)…1本、焼酎・泡盛…原液で1合の2/3、ウィスキー・ブランデー…ダブル1杯、ワイン…グラス2杯程度」(※3)とされています。
・食生活を見直す、偏らずバランスよくとる
塩分のとりすぎは胃がんのリスクが高いとされていることに加え、高血圧や循環器疾患のリスクにも繋がります。
減塩となる目安として、1日あたり「男性は7.5g未満、女性は6.5g未満」(※3)を推奨しています。
また、不足しがちな野菜や果物も積極的にとりましょう。
・身体を動かす
国立がん研究センターの研究報告によると、「仕事や運動などで身体活動量が高い人ほど、何らかのがんになるリスクが低下」(※3)していたという報告があるようです。
18歳~64歳の身体活動の目安としては、毎日60分の歩行または同等以上の強度の身体活動です。さらに、息がはずみ、汗のかく運動を1週間に60分行いましょう。
・適性体重を維持する
BMIの値について、「男性は21.0~26.9、女性は21.0~24.9で、がん死亡のリスクが低いこと」(※3)がわかっています。そのため、太りすぎ、やせ過ぎに注意しましょう。
BMIの計算方法は(体重kg)/(身長m)2です。
例)身長165cm、体重60kgの場合
60(kg)÷(1.65(m)×1.65(m))=BMI 22.0
・感染
実はさまざまな感染もがんの主要な原因とされています。たとえば、B型・C型肝炎ウイルスは肝細胞がん、ヘリコバクターピロリ菌は胃がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんの原因でもあります。
いずれも感染したら必ずがんになるわけではありませんが、感染状況に応じて対処することで、がんを防ぐことが期待できます。
肝炎ウイルスとピロリ菌は感染の有無を確認し、感染している場合は除菌を検討します。
また、子宮頸がんはワクチン接種によって予防することができます。地域の保健所や医療機関などでこれらの検査、治療を受けることができます。
この「日本人のためのがん予防法(5+1)」を実践することで、がんのリスクはほぼ半減することがわかっています。まずはできそうなことから始め、徐々によりよい健康習慣を身につけていきましょう。
【出典】
※3:国立がん研究センターがん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防 がんになるリスクを減らすために」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html
4.がん検診と健康診断を併せて自分の健康を自分で守りましょう
日本人に多いがんは、がん検診と健康診断を併せて自分の健康を定期的にチェックすることができます。
定期的にがん検診を受けることで、早期発見や早期治療に繋がるだけでなく、日頃から自分の健康を自分で守る意識が高まるはずです。
対象の年齢になったら自治体からのお知らせをきちんと確認し、定期的に検診を受けましょう。
<編集部より>
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≪執筆者プロフィール≫
ライター・白石弓夏(しらいしゆみか)
看護師兼ライター。15年以上看護師として病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟で勤務中。
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参考
- 国立がん研究センターがん情報サービス「がん検診について」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr01.html - 国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html - 厚生労働省「がん検診」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html - 厚生労働省「職域におけるがん検診に関するマニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000213286.pdf - 国立がん研究センターがん情報サービス「胃がん検診について」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/stomach.html - 国立がん研究センターがん情報サービス「子宮頸がん検診について」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/cervix_uteri.html - 国立がん研究センターがん情報サービス「肺がん検診について」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/lung.html - 国立がん研究センターがん情報サービス「乳がん検診について」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/breast.html - 国立がん研究センターがん情報サービス「大腸がん検診について」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/colon.html - 厚生労働省 がん対策推進協議会「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000991054.pdf - 厚生労働省「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_catch-up-vaccination.html - 国立がん研究センターがん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html
※当記事は、2023年7月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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