心身の健康を高める

がんの「検査」を徹底解説

公開日:2023.08.14

ある年齢に達すると、誰もががんについて心配になるものです。しかし、どのような検査が行われるのかや、費用が高額ではないかといった不安から、がん検診を先延ばしにしている人もいるかもしれません。しかし、がんは早期発見・早期治療が極めて重要です。特に自治体などで実施されているがん検診は、比較的低価格で受けることができる場合もあります。そのため、少しでも気になることがあれば、検診を受けてみることをおすすめします。今回は、がん検診の概要や、さまざまな検査について詳しく見ていきましょう。

1. がん検診には2種類ある

がん検診には、自治体などで行われる対策型がん検診と、人間ドックなどで行われる全額自己負担の任意型がん検診があります。

1.1 対策型がん検診

対策型がん検診(住民健診型)とは、国の公共政策の一環として実施され、その目的はがんによる死亡率を低下させることです。がんによる死亡率を減らすためには、早期発見と早期治療が重要です。そのため、特定の年齢層の自治体住民を対象に、5種類のがんに関する検診を推奨しています。

この対策型がん検診では、以下の条件に基づいた検診が行われます。

(1)検診対象者が無症状である:
対策型がん検診は、あくまで無症状の人を対象に、がんの早期発見を目指すものです。すでにがんの疑いがある症状がみられる人は、診療の対象になりますので、医療機関を受診することになります。

(2)その検診を受けることによって死亡率が減少することが、科学的に検証されている:
対策型がん検診で行われる検診は、これまでの研究や調査などから、検診を受けてがんが見つかり治療を受けることで死亡率を下げているものであることが、十分に検証されているものとしています。

(3)がん検診を受けることの利益(メリット)が、不利益(デメリット)を上回る:
これについては、「2.3がん検診を受けることのメリット」で詳しく解説します。

1.2 任意型がん検診

任意型がん検診は、広義には対策型がん検診以外の検診を指します。具体的には、主に人間ドックで実施される検診が該当します。この「任意」型という言葉からもわかるように、一定の年齢範囲に限らず、自由に受診が可能です。ただし、無症状の人を対象とする点は対策型がん検診と共通しています。また、検診の内容が科学的に検証され、死亡率の低下に寄与することが望ましいとされています。

任意型がん検診では、利益(メリット)が不利益(デメリット)を上回るかどうかは、受診する人が検診を行う医療者から適切な情報を提供された上で、自ら判断することになります。任意型がん検診は、対策型がん検診と比べてさまざまな検査を受けることができる点が特徴です。

人間ドックなどの任意型がん検診は、基本的に全額自己負担です。ただし、福利厚生の一環として勤務先の健康保険組合などから一部費用が補助される場合もありますので、調べてみると良いでしょう。

2. 対策型がん検診で行われるがん検診

ここでは、自治体で行われる対策型がん検診についての概要を説明します。

2.1 対策型がん検診の概要

対策型がん検診を受ける方法、費用、場所は、自治体やがん検診の内容によって異なります。自治体のWebサイトなどから自身で受診の申込みをする場合や、自治体からがん検診の案内が送られてくる場合もあります。

検診費用についても、一部補助される検診や無料クーポンが利用できる検診などがあります。がん検診は自治体の保健施設や委託を受けた病院や診療所などの医療機関で実施されます。

日本医師会のWebサイトには、全国のがん検診の相談・受付窓口がまとめられていますので、自分の地域の窓口を一度確認してみると良いでしょう。

日本医師会「知っておきたいがん検診 各自治体の検診窓口/都道府県」

https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/contact/map/



受診当日は受診票、健康保険証、検査によっては事前に採取した検体などを持って、受診する施設に行きます。また検査によっては、前日や当日朝の絶飲食が必要な場合もあります。

検査後の手順は、以下のとおりです。
検査の結果、がんの疑いがない場合は、精密検査(精検)を受けずに次回の定期的ながん検診を待つことになります。がんの疑いが見られる場合は、精密検査が必要とされます(要精検)。

精密検査の結果、がんである場合は治療を受けることになります。精密検査の結果、異常なしまたは良性の病変(生命に影響を与えない異常)である場合も、次回の定期的ながん検診を待つことになります。このように、がんが「ある」か「ない」かが判明するまでのすべての手続きが、がん検診なのです。

【出典】
国立がん研究センター「がん情報サービス がん検診について もっと詳しく」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr02.html

2.2 国が推奨するがん検診

現在、国が推奨するがん検診は、胃がん検診、子宮頸がん検診、肺がん検診、乳がん検診、大腸がん検診、の5種類です。それぞれの検査内容については、「3.がん検診で行われる検査の内容」で詳しく見ていきます。

2.3 がん検診を受けることのメリットと注意点

対策型がん検診の条件として、「がん検診を受けることの利益(メリット)が不利益(デメリット)を上回る」ことを前に述べました。これはどういうことなのでしょうか。

まず、メリットとして、がん検診によって「がんによる死亡が減ること」があります。がんは早期発見・早期治療が重要であり、症状が現れた段階では進行していることが多く、治療が難しくなる場合もあります。しかし、無症状のうちにがんを発見すると早期に適切な治療を開始することができるため、がんによる死亡率を減らす効果があります。

また、がん検診を受けて異常がない場合は、安心感を得ることができるという精神的なメリットもあります。

一方で、デメリットや注意点も存在します。以下は考えられる事柄です。

  • 現在の検査技術には限界があり、すべてのがんを100%検出できるわけではないこと。
  • がんと診断された場合でも、症状が出ないまま進行しない場合があり、不要な検査や治療を受けることがある(過剰診断)。また、がんではないにもかかわらず、検査結果ががんの疑いとなる場合もある(偽陽性)。
  • 検査に伴う偶発症や副作用のリスクがあること。例えば、X線検査による放射線被ばくががんの原因になる可能性は非常に低いですが、それでも存在することがあります。ただし、医師の技術や機器の性能向上により、これらの影響は最小限に抑えられると考えられています。
  • 「異常あり」と判定された場合、最終的にがんであるとは限らず、結果が確定するまで精神的な負担がかかること。

3. がん検診で行われる検査の内容

ここでは、対策型がん検診で行われると検査内容と、任意型がん検診で行われるがん検査について解説します。

3.1 胃がん検診

胃がんは、50代以降にかかる人が多く、国内で死亡率が高いがんです。早期は自覚症状がありませんが、胃の痛みや不快感、食欲がない、食事がつかえるといった症状がある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

・対象年齢:50歳以上(胃部X線検査は40代での実施も可)
・受診間隔:2年に1度(胃部X線検査は当面の間1年に1度の実施も可)

3.1.1 胃部X線検査

胃部X線検査は、いわゆるレントゲン検査です。発泡剤とバリウムを飲み、胃の粘膜を調べます。検査当日は朝食を食べられません。またバリウムを飲むことで便秘や、まれに腸閉塞を起こすこともあります。放射線被ばくによる健康への影響はほとんどないとさています。

3.1.2 胃内視鏡検査

胃内視鏡検査は、一般的には「胃カメラ」として知られる検査方法です。この検査では、口から挿入する経口内視鏡や鼻から挿入する経鼻内視鏡を使用して、胃の内部を観察します。もし異常が見つかれば、生検と呼ばれる方法で胃組織を採取し、がんの有無を確認することができます。検査当日は、朝食を摂ることはできません。また、検査前には喉の麻酔などが行われる場合があります。

3.1.3 胃がんの精密検査

上記の検査で「異常あり」となった場合は、胃内視鏡検査で生検を行い、異常が見られた箇所が悪性かどうか組織をとって調べます(組織診)。

3.2 子宮頸がん検診

子宮頸がんは、国内の女性の中で比較的頻繁に発生するがんの一つです。特に20代から40代の女性に多く見られ、近年ではその発症率が増加しているといわれています。このがんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関与していると考えられています。早期段階では症状がほとんど現れませんが、月経(生理)以外の出血や閉経後の出血、月経の不規則さがある場合には、すぐに医療機関を受診することが重要です。

・対象年齢:20歳以上
・受診間隔:2年に1度

3.2.1 細胞診

細胞診は、子宮頸部(子宮の入口)の細胞をブラシ状の器具でこすり、採取した細胞を顕微鏡で観察し、異常があるかどうかを調べる検査です。ただし、月経中は検査ができません。

3.2.2 子宮頸がんの精密検査

上記の検査で「異常あり」となった場合は、コルポスコープ(腟拡大鏡)を使った内診(コルポ診)で、さらに異常が見つかれば悪性かどうか組織を採って調べます(組織診)。また、子宮頸部から細胞を採取し、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しているかどうかを調べることもあります。

3.3 肺がん検診

肺がんは国内でも死亡率が高いがんです。タバコを吸う人は肺がんの死亡リスクが高く、喫煙習慣のある人はない人に比べて男性で約5倍、女性で約4倍高いといわれています。早期は無症状ですが、血痰、長引く咳、胸の痛み、声がれ、息切れなどの症状がある場合は医療機関を受診しましょう。

・対象年齢:40歳以上
・受診間隔:1年に1度

3.3.1 胸部X線検査

胸部X線検査は、胸のいわゆるレントゲン検査です。放射線被ばくによる健康への影響はほとんどないとされています。

3.3.2 喀痰細胞診(痰の検査)

喀痰(かくたん)細胞診は、3日間、朝起きた時に痰をとります。容器に入れて提出した痰から細胞を調べる検査です。50歳以上、かつ1日の喫煙本数×喫煙年数の数値が600以上の人に推奨されます。

3.3.3 肺がんの精密検査

上記の検査で「異常あり」となった場合は、胸部CT検査を行います。必要に応じて気管支鏡検査を行い、異常が見つかれば組織を採って悪性かどうか調べます(組織診)。

3.4 乳がん検診

乳がんは、日本国内の女性がかかるがんの中でも罹患者数が多く、死亡原因の上位を占めるがんです。早期は無症状ですが、乳房のしこりやひきつれ、乳頭から血が混じった液が出る、乳頭の湿疹やただれなどの症状がある場合は医療機関を受診しましょう。

・対象年齢:40歳以上
・受診間隔:1年に1度

3.4.1 マンモグラフィ検査

乳房をプラスチックの板で挟んで撮影する検査です。自分ではわからない小さいしこりなどを見つけることができます。放射線被ばくによる健康への影響はほとんどないとされています。

3.4.2 乳がんの精密検査

上記の検査で「異常あり」となった場合は、(1)マンモグラフィでさらに詳しく調べる、(2)超音波検査(エコー)で乳房を詳しく調べる、(3)異常がありそうな箇所に針を刺して細胞や組織を採取し悪性かどうかを調べる、といった検査を組み合わせて行います。

3.5 大腸がん検診

大腸がんは、近年かかる人が増加しており、国内のがんによる死亡原因としても多いものです。早期は無症状ですが、血便、腹痛、便の形や排便の回数が変わったなどの症状がある場合は、医療機関を受診しましょう。

・対象年齢:40歳以上
・受診間隔:1年に1度

3.5.1 便潜血検査

便潜血検査は、2日分の便を採取し容器に入れ提出します。便に血液が混じっていないかどうか調べる検査です。

3.5.2 大腸がんの精密検査

上記の検査で「異常あり」となった場合は、下記の検査を受診します。

3.5.2.1 全大腸内視鏡検査

下剤で大腸を空にして、内視鏡(カメラ)を肛門から入れて大腸の全体を調べ、がんやポリープがないか調べます。異常が見つかった場合は、その場で組織を採って調べます(組織診)。

大腸がんの発見に非常に有効な検査法ですが、ごくまれに内視鏡が腸壁にぶつかることで出血や穴が開く(腸穿孔)がある点がデメリットと考えられ、対策型がん検診では精密検査時のみに適用されます。また、内視鏡が届かない部分がある場合は、X線検査やCT検査を併用します。

3.6 その他のがん検査

ここでは、対策型がん検診(精密検査を除く)で行われるもの以外の、人間ドックなどの任意型がん検診などで行われる検査について解説します。

3.6.1 画像検査

X線検査:
いわゆるレントゲン検査です。対策型がん検診では胃がん検診、肺がん検診に用いられていますが、乳がん検診、大腸がん検診の精密検査、骨のがんを調べるために行います。

また、造影剤を使う場合もあり、食道がん、胃がん、大腸がんといった消化器のがん、膀胱がんなどの泌尿器のがんなどで行います。放射線を使いますが、被ばくによる影響はほとんどありません。

CT検査:
ベッドに仰向けになり、トンネル状の機器に入りX線をあてて、身体の断面を画像にして異常がないか調べる検査です。ほぼすべてのがんの検査で行われています。放射線を使いますが、被ばくによる影響はほとんどありません。

MRI検査:
ベッドに仰向けになってトンネル状の機器に入り、磁石と電波で起こした磁場により、さまざまな身体の断面を画像にして異常がないか調べる検査です。ほぼすべてのがんの検査で行われています。放射線を使わないため、被ばくはありません。

ただ、検査時間が15~45分とCT検査より長く、また機器の中が狭いため、閉所恐怖症の人は検査が難しいこともあります。

PET検査:
FDG(放射性フッ素を付加したブドウ糖)を静脈に注射し、機器の上に仰向けに寝て身体を撮影します。がん細胞はブドウ糖を活発に消費するため、ブドウ糖が集まっている場所を画像にして調べることができます。一度にほぼ全身のがんを調べることができる利点があります。

しかし、脳や胃をはじめとして、もともと身体にブドウ糖が集まっている場所では、がんの診断が難しいこともあります。放射性の物質を注射しますが、被ばくの影響はほとんどありません。

超音波(エコー)検査:
身体の表面に超音波プローブという機器をあて、がんの有無を調べる検査です。身体の表面にゼリーを塗ったり、造影剤を使用したりする場合もあります。痛みは特になく、放射線による被ばくもありません。

肝臓がん、胆のうがん、膵臓がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がんといった腹部にあるがんや、甲状腺がん、乳がん、などさまざまながんの検査に用いられています。

3.6.2 病理検査

病理検査は、身体から採った細胞や組織を顕微鏡で調べ、どのようながんかを診断するための検査です。対策型がん検診であっても、最初の検査で「異常あり」の場合、最終的に悪性かどうかを判断する精密検査で用いられることがあります。

3.6.3 腫瘍マーカー検査

一般に採血による血液検査、採尿による尿検査などで知られる検査です。血液や尿の中にある、がんの種類によってつくられるタンパク質の物質を、専用の装置で数値化します。

しかし、がん以外の病気や飲酒などの生活習慣、服用している薬による肝障害や腎障害によって数値が高く出てしまう場合もあります。また、がんであっても数値が低い場合もあります。そのため、他の検査と併せて行うものと考えられています。

4. 自分の年齢で対応するがん検診を調べて、受診間隔にも留意

がんは国内における罹患者数が多い病気ですが、早期発見によって治療が可能です。まずは早期発見のために、自分の年齢や性別に合わせて自治体で行われている検査を調べ、把握しておくと良いでしょう。また、がんによっては年に1度の定期検診が推奨されているものありますので、受診間隔にも留意しましょう。



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«執筆者プロフィール≫
ライター・小南哲司(こみなみてつじ)
医療系出版社勤務を経て2022年よりライターに。医療分野の記事を中心に執筆。
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参考

※当記事は、2023年6月に作成されたものです。検査の項目や条件などは、今後変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

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