会社勤めをしていると、基本的に毎年実施される健康診断。しかし、実際にはどのような検査があるのか、検査を受けることで見つかる病気、どのような結果が出たらどういった病気のリスクが考えられるのかなど、何気なく受けているだけでわからないことも多いかもしれません。また、健康診断を受ける前後の過ごし方や注意点もあり、あらためて知っておくことで健康診断をスムーズに受けることができます。生活の見直しや健康管理に役立てられるきっかけともなるため、一緒に健康診断について確認していきましょう。
目次
1. 健康診断の基本情報
まずは健康診断とはそもそもどんなものなのか、基本情報をおさえていきましょう。
1.1健康診断とは?どのような種類、検査があるのか
健康診断とは、身体の状態を通信簿のように評価するものです。健康診断は健診とも略されますが、同じ「けんしん」という読み方でも、実は「健診」と「検診」は異なります。健診は労働安全衛生法などにもとづいて、病気の早期発見、早期治療、病気そのものの予防を目的としているもので、その人の健康状態を総合的に把握するものです。一方、検診は特定の病気を発見するために検査を行うものです。たとえば、がん検診として胃がん検診、肺がん検診、乳がん検診、子宮がん検診などのように、検査対象となる病気の名前がつくものが多いです。
また、健康診断と一口にいってもさまざまな種類があります。特殊健康診断、特定業務従事者や海外派遣労働者の健康診断などによって内容がそれぞれ定められています。これらの健診は法定健診(定期健診)に分けられています。ここでは、そのなかで多くの人が関係する「雇入時健康診断」と「定期健康診断」について紹介していきます。
1.2健康診断にある項目
雇入時健康診断と定期健康診断、この2つの健康診断は、労働安全衛生法第66条にもとづき、事業者は従業員に対して、医師による健康診断を実施しなければなりません。雇入時健康診断は労働安全衛生規則43条により定められ、その名の通り雇入れの際に実施します。定期健康診断は労働安全衛生規則第44条により定められ、1年以内ごとに1回、定期に医師による健康診断を行います。健康診断では病気の予防や早期発見だけでなく、就業の可否、適正配置の判断のためにその結果を活用していきます。
1.2.1雇入時の健康診断の項目
雇入時の健康診断の項目(※1)は以下のようになっています。
・既往歴及び業務歴の調査 ・自覚症状及び他覚症状の有無の検査 ・身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 ・胸部エックス線検査 ・血圧の測定 ・貧血検査 (赤血球数、血色素量) ・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP) ・血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド) ・血糖検査 ・尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査) ・心電図検査(安静時心電図検査) |
まずは問診票で、既往歴や業務歴、自覚症状や他覚症状などについて記入します。その後受ける検査には身体検査、画像検査、生理検査、検体検査と種類があり、それぞれ以下のように分類されます。
- 身体検査:身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査
- 画像検査:胸部エックス線検査
- 生理検査:血圧の測定、心電図検査など
- 検体検査:血液検査や尿・便検査
1.2.2定期健康診断の項目
定期健康診断の項目(※1)は以下のようになっています。
・既往歴及び業務歴の調査 ・自覚症状及び他覚症状の有無の検査 ・身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 ・胸部エックス線検査及び喀痰(かくたん)検査 ・血圧の測定 ・貧血検査 (赤血球数、血色素量) ・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP) ・血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド) ・血糖検査 ・尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査) ・心電図検査(安静時心電図検査) |
基本的には雇入時健康診断とほぼ同じですが、違いは喀痰(かくたん)検査が含まれている点です。ただし、胸部エックス線検査で病変が確認できない場合は省略可となっています。このように2つの健康診断の大きな違いとしては、雇入時の健康診断はすべての検査項目が必須となっている一方、定期健康診断では検査項目の一部が過去の結果や自覚症状・他覚症状の有無などを参考にして健康診断を実施する医師(産業医含む)の判断により省略することにあります。
これらの検査は基本的な項目であり、35歳以上になるとバリウム検査や胃カメラ、検便検査、40歳以上になると特定健康診査・特定保健指導の対象となり、検査内容が変わることがあります。バリウム検査や胃カメラの胃部検査は義務ではなく、会社や健康保険組合の健康診断によって追加のオプションとして付加されていることがあります。ご自身が所属する会社や健康保険組合の健康診断の内容をよく確認してみましょう。
【出典】
※1:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」をもとにティーペックが作成
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf
2. 健康診断でわかること
健康診断は、自覚症状がない病気も含め、病気のリスク予防、早期発見、早期治療を目的としています。どのようにして検査結果からリスクがわかるのかをまとめました。
2.1健康診断の結果の見方
健康診断の結果は、実施する医療機関や健康保険組合によって、項目ごとの異常値やコメントの用語に多少の違いがありますが、基準や用語が大きく異なるわけではありません。まずはご自身が行っている健康診断の案内や結果用紙にわかりやすい解説が載っていますので、よく確認しましょう。その上で、大事な用語をご紹介します。
個別の検査項目の結果にはそれぞれ、正常、異常[高値・低値、H(High)・L(Law)、+-±]、異常所見として(○○の疑いあり)などの記載があります。診断区分として「A異常なし」「B軽度異常」「C要経過観察・生活改善」「D要医療」「E治療中」などが健康診断のレポートに記されているのが一般的です。再検査が必要、精密検査が必要など、次にどのような行動を取ればいいのか記載されていることが多いため、その指示に従い早めに受診しましょう。場合によっては、通常業務のままでいいのか、一定の就業制限が必要なのか、休業が必要なのか、産業医や健康診断を実施した医療機関の医師に相談することも大切です。
また、定期健康診断ではどのくらいの異常、病気を発見できるのか、気になるかもしれません。厚生労働省(※2)では、有所見率(異常の所見があった確率)について以下のようなデータを発表しています。
2017年:54.4% 2018年:55.8% 2019年:57.0% 2020年:58.5% 2021年:58.7% |
2008年以降は有所見率50%越えとなり、増加傾向にあります。また、2021年項目別有所見率では血中脂質が33.0%と最も高く、次いで血圧(17.8%)、肝機能検査(16.6%)、血糖検査(12.5%)、心電図(10.5%)となっています。
【出典】
※2:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和3年定期健康診断実施結果報告(年次別)」
2.2健康診断でわかる病気のリスク
検査項目でひとつでも異常値があったからといって、それだけで病気のリスクがわかるものではありません。検査の内容によっては環境要因などを受けやすいものもあり、他の検査項目や既往歴、自覚症状など問診の結果を総合的に判断します。特に生活習慣に関する病気(高血圧、糖尿病、高脂血症、動脈硬化など)は自覚症状がなく病気が進行するため、健康診断で異常が発見されたことをきっかけに、受診・入院するケースが多いです。たとえば、血液検査ではコレステロールや血糖値などの値がわかるため、これらの検査と併せて尿検査や心電図検査などを介して判断し、医療機関を受診して詳しく調べていきます。
おおまかにどこの臓器に異常がみられているのか、どういう病気のリスクがあるのかなどの判断はつきますが、特定の病気を見つける検診や、精密検査後の確定診断とは異なるため、健康診断のみで特定の病名がわかるわけではありません。特にがんに至っては、家族歴や自覚症状で気になる場合には、健康診断に加えて詳しい検査を行う人間ドックや検診も併用して判断する必要があります。
3.健康診断の前後の過ごし方、注意点
それでは、実際に健康診断の前日、当日、後の過ごし方をイメージしやすいように紹介していきます。基本的には、健康診断の案内に沿って注意事項を確認していきましょう。
3.1健康診断前日の過ごし方
前日は暴飲暴食、寝不足、タバコ、アルコール、激しい運動は避けましょう。特に血液検査や尿検査の値に影響します。血糖の検査・バリウム検査・胃カメラの検査の場合には、空腹時の状態を知る必要があるため、「前日21時以降は飲食禁止」「当日朝以降は水以外の飲食禁止」など事前に食事や水分を控えること(飴やガムなども控える)があります。また、風邪などの体調不良時は無理に健康診断を受ける必要はありません。
何らかの治療中の場合は常用薬をいつまで服用するか、いつ再開するかは行う検査によって異なるので、事前に主治医に確認しましょう。サプリメントも前日および当日は避けてください。生理中の女性の場合、尿検査・便検査は経血の影響を受けるため、後日尿検査だけを受ける、もしくは健診日を変更するなど相談することで対応してもらえます。最後に、問診票は前日までに記入し、当日忘れずに持っていきましょう。
3.2健康診断当日の過ごし方
尿検査は朝起きてすぐ採取する場合は、忘れずに準備しておきましょう。健診コースによっては医療機関で採取することもあります。また、血圧測定や心電図検査、レントゲン検査では、腕や胸腹部をめくりやすい服装が便利です。顔や手首・足首などの装飾品は外す必要があるため、あらかじめ外しておく方がスムーズです。ワンピースやストッキング、タイツ、コルセットなどは着替えてもらう可能性があります。コンタクトレンズは特定の検査では外す必要があるため、メガネも持参するといいでしょう。また、アルコールのアレルギーの有無は事前に申告してください。
もし前日に注意事項を守れなかった場合は、いつ・何を・どのくらい食べた・飲んだなど受診や問診の際に申告してください。場合によっては一部の検査を後日行うこともあります。
3.3健康診断後の過ごし方
さまざまな検査を一度に行うと数時間~半日ほどかかるため、その後の仕事は控えめに、もしくは休みを取るのもいいでしょう。特に胃カメラは局所麻酔が効いているため、検査後の数時間は飲食を控え、少量の水分から摂取し、刺激物は避けてください。全身の鎮静薬を使用している場合には、検査後数時間は安静にします。車の運転、精密な作業や高所作業などには注意が必要です。胃のバリウム検査後は下剤を服用し水分を多めにとって、バリウムが排出されたか観察を行います。
検査結果について気になるところがあれば、健康診断を行った医療機関、また会社によって設置されている産業医や産業保健師に相談しましょう。
4. 健康診断と生活習慣の改善で健康管理を
自分では気づきにくい症状や病気を早期発見、早期治療するためには、定期的に健康診断を受けることが大切です。働く人の健康を守るための健康診断を通して、あらためて生活習慣の見直しをしつつ、日頃から健康管理を意識していきましょう。
<編集部より>
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≪執筆者プロフィール≫
ライター・白石弓夏(しらいしゆみか)
看護師兼ライター。15年以上看護師として病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟で勤務中。
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参考
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「健診」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-093.html - 厚生労働省 健康局「標準的な健診・保健指導プログラム【平成30年度版】」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/00_3.pdf - 厚生労働省 栃木労働局「定期健康診断等について」
https://jsite.mhlw.go.jp/tochigi-roudoukyoku/library/tochigi-roudoukyoku/seido/eisei/teiki.pdf - 国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院「当院で行われる検査について」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/d001/gairai/kensa/index.html - 厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 職場のあんぜんサイト「定期健康診断[安全衛生キーワード]」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo51_1.html - 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf - 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和3年定期健康診断実施結果報告(年次別)」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450211&tstat=000001018638&cycle=7&year=20210&month=0&result_back=1&tclass1val=0
※当記事は2023年6月時点で作成したものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
※健康診断の項目や条件などは、今後変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。
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