2025年4月から、風邪を含む「急性呼吸器感染症」が、新型コロナウイルスやインフルエンザと同じ「5類感染症」に位置づけられることになりました。この改正により、私たちの生活はどのように変わるのでしょうか?本記事では、風邪が5類に移行される目的や、私たちの生活への影響、急性呼吸器感染症の症状などについて解説します。(以下、医師監修による記事です)
目次
1.急性呼吸器感染症(ARI)とは?
呼吸器系には、鼻腔(びくう)・咽頭(いんとう)・喉頭(こうとう)から構成される「上気道(気道の上部)」と、気管・気管支・細気管支・肺胞から構成される「下気道(気道の下部)」があります。
上気道がウイルスや細菌に感染し炎症を起こすと、鼻炎や喉の痛みといったいわゆる風邪(急性上気道炎)の症状が現れます。その炎症が気管支や肺にまで及ぶと咳や痰、胸痛などの症状が現れ、下気道炎(急性気管支炎や肺炎など)を引き起こします。
急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection:ARI)は、上気道炎や下気道炎を引き起こす病原体による感染症の総称です。ARIには、インフルエンザ、新型コロナウイルス、RSウイルス、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)、ヘルパンギーナなどの感染症が含まれます。
2.風邪が「5類」に移行、私たちの生活はどう変わる?
厚生労働省は2025年4月7日から感染症法施行規則改正により、風邪を含むARI(すでに5類感染症として位置づけられているものを除く)を感染症法上の5類感染症に追加することを発表しました。
感染症法とは?
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)は、感染症の予防や感染症の患者に対する医療に関する必要な措置を定めた法律です。この法律においては、リスクや影響の大きさなどに応じて5つの類型に分類しています(表1)。
表1 感染症法における感染症の分類
分類 | 分類の考え方 |
---|---|
1類 | 危険性が極めて高い感染症 (エボラ出血熱、ペストなど) |
2類 | 危険性が高い感染症 (結核、SARSなど) |
3類 | 特定の職業への就業によって感染症の集団発生を起こし得る感染症 (コレラ、腸チフスなど) |
4類 | 動物、飲食物等の物件を介してヒトに感染する感染症 (狂犬病、マラリアなど) |
5類 | 国が感染症発生動向調査を行い、その結果等に基づいて必要な情報を国民一般や医療関係者に提供・公開することによって、発生まん延を防止すべき感染症 (新型コロナウイルス感染症、インフルエンザなど) |
なぜ急性呼吸器感染症が5類感染症に?
ARIは飛沫感染(咳やくしゃみなどによってウイルスや細菌が飛び散ることによって感染する)を通じて周囲にうつしやすいことが特徴です。このことから新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえて、
(1)流行につながりやすい急性呼吸器感染症の動向を把握する
(2)仮に未知の呼吸器感染症が発生した場合に迅速に察知する
という2つの目的から、普段から流行の動向を注意しながら監視する(サーベイランス)の対象として5類感染症に位置付けられました。
私たちの生活への影響は?
ARIが5類感染症に分類されることで、私たちの生活に何か変化はあるのかというと、患者側は何も変わることはありません。そのため、診察上の扱いも医療費が増減することはありません。
また就業制限や登校の制限の対象にもならないため、これまで通り「自己判断」での対応となります。しかし仕事の場合は症状が治るまでは在宅勤務にするなど、周囲にうつさないように配慮が必要です。なお、インフルエンザ等の個別の感染症について定められている運用にも変更はありません。
3.主な急性呼吸器感染症の症状と流行時期
●かぜ症候群
かぜ症候群は鼻や喉などに急性の炎症が起こる疾患の総称で、急性上気道炎とも呼ばれます。原因の約80〜90%がウイルスによるものです。風邪を引き起こすウイルスは200種類以上あり、主なものに、ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルスなどがあります。感染経路として、飛沫感染や手指を介した接触感染が挙げられます。
【症状】
自覚症状として、鼻水や鼻詰まりや喉の痛みがあります。ほかに、発熱や頭痛、全身の倦怠感などが現れます。下気道にまで炎症が生じた場合、咳や痰といった症状が出現します。
【潜伏期間】
通常は1週間以内
【流行時期】
年間を通じて発症。
ライノウイルスが原因の風邪は秋や春にかけて多く、乳幼児の気管支炎や肺炎の原因となるヒトメタニューモウイルスが原因の風邪は、春から夏(3月から6月ごろまで)にかけて流行します。
●季節性インフルエンザ
インフルエンザウイルスによる感染症で、主に飛沫感染、接触感染によって感染します。かぜ症候群に比べて呼吸器症状よりも先に、頭痛や発熱、悪寒といった強い全身症状が急速に現れるのが特徴です。
【症状】
38℃以上の発熱、頭痛、悪寒、関節痛・筋肉痛、強い全身倦怠感が現れます。その後、やや遅れて痰を伴う激しい咳などの呼吸器症状がみられます。
【潜伏期間】
感染から発症までの潜伏期間は、1〜3日程度。
【流行時期】
例年12月〜3月
●マイコプラズマ肺炎
肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)に感染することによって生じる肺炎で、健康な小児から成人の肺炎の主な原因として、比較的多いものの一つです。接触・飛沫によって感染します。感染者数は2024年夏ごろから全国的に増加傾向にあります(2025年2月時点)。
【症状】
発熱や頭痛、全身倦怠感のほかに咳などの症状が現れます。熱が下がった後も、乾いた咳が長期間(3〜4週間程度)続くのが特徴です。
【潜伏期間】
感染してから2〜3週間
【流行時期】
年間を通じて発症しますが、特に秋から冬にかけて増加する傾向にあります。
●RSウイルス感染症
RSウイルスを病原体とする感染症で、主に飛沫感染、接触感染によって拡大します。生後2歳までにほぼ100%の小児が感染するとされています。
【症状】
発熱や鼻水、咳といった症状のほかに、1歳以下では中耳炎の合併がみられることがあります。
【潜伏期間】
感染後2〜8日。平均4〜6日とされています。
【流行時期】
近年は夏から感染者数が増え始め、秋にピークを迎えていました。
しかし、2021年以降は春から初夏にかけて増加し、夏にピークを迎える傾向にあります。
●咽頭結膜熱(プール熱)
小児に多い感染症で、アデノウイルスへの感染によって発症します。プールを介して流行することから「プール熱」ともいわれていました。
【症状】
38℃以上の発熱や喉の痛み、扁桃腺の腫れといった症状がみられます。熱は4〜5日ほど続きます。また、片目もしくは両目が充血し、目やにが出るなどの結膜炎症状があらわれます。
【潜伏期間】
感染してから5〜7日程度
【流行時期】
例年7〜8月
4.急性呼吸器感染症の予防法
新型コロナウイルスの流行以降、基本的な感染症対策として、換気や手洗い・手指消毒、マスクの着用を含めた咳エチケットなどが実施されてきました。これらの基本的な感染症対策はARIへの感染を防ぐうえでも重要な対策です。特に高齢者や基礎疾患がある人がARIに感染した場合、一般の人に比べ重症化する恐れがあります。基本的な感染症対策を継続するとともに、十分な睡眠と栄養を摂り、免疫力を高めることを心がけましょう。
<編集部より>
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監修者プロフィール
本間 雄貴医師
順天堂大学医学部卒業後、外科医として臨床に携わってきた。
手術を受け、苦しむ患者さんの姿を目の当たりにし、病気になってから治療を開始するのではなく、早期に介入し、病気になりにくい体を作る予防医学への関心が高まった。
現在は疫学研究に従事する傍ら、地域医療にも貢献している。
医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。
参考
- 厚生労働省「急性呼吸器感染症(ARI)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ari.html (2025年3月7日閲覧) - 厚生労働省「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001361828.pdf (2025年3月7日閲覧) - 厚生労働省「急性呼吸器感染症(ARI)に関する Q&A 」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001388178.pdf (2025年3月7日閲覧) - 厚生労働省「マイコプラズマ肺炎増加に関する学会からの提言について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001320926.pdf (2025年3月7日閲覧) - 国立感染症研究所「IDWR 2025年第9号<注目すべき感染症> RSウイルス感染症」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrc.html (2025年3月21日閲覧) - 厚生労働省「新型コロナウイルス感染予防のために」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kenkou-iryousoudan.html#h2_1 (2025年3月7日閲覧)
※当記事は、2025年3月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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