近年の高温傾向とともに、熱中症の発生も増加しており、自宅や職場での熱中症対策が重要になっています。今回は、熱中症が疑われる症状と対処法、予防のポイントを紹介します。
目次
1. 熱中症の症状と対処法
暑い場所で長時間過ごした後の立ちくらみなど、「もしかして、熱中症?」と思われる症状がある場合は、症状や重症度に応じた対処法が必要になります。特に体温調節機能が十分に発達していない子どもや、暑さや水分不足の感覚機能が低下している高齢者は、注意が必要です。自分自身はもちろんのこと、熱中症が疑われる人がいれば、すぐに以下のような応急手当てを行いましょう。
熱中症の重症度と対処法
熱中症の症状は、重症度により以下のI度(軽症)~III度(重症)に分けられます。重症度を判断するポイントは、「意識がはっきりしているか」です。少しでも意識がおかしいと見られる場合は、II度(中等度)以上と判断し、医療機関に搬送しましょう。意識がない場合は、すべてIII度(重症)と判断し、体を冷やしながら、すぐに救急車を要請しましょう。体を冷やす場合は、衣服を緩め、体に水をかけたり、保冷剤や氷まくらなどを当てますが、太い血管が通っている首の周りや脇の下、太ももの付け根などを冷やすと効率的です。
■重症度I度(軽症)
<代表的な症状>
・意識ははっきりしている
・目まい、立ちくらみ、生あくび
・筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)
・大量の発汗
<対処法>
・涼しい場所に移動して体を冷やす
・安静にして水分・塩分を補給する
・誰かが付き添って見守り、口から飲めない、症状の改善が見られない場合は、医療機関へ搬送
■重症度II度(中等度)
<代表的な症状>
・頭痛
・嘔吐(おうと)、吐き気
・倦怠(けんたい)感、虚脱感
・集中力や判断力の低下
・体温の上昇
<対処法>
I度の対処法に加えて
・衣服を緩め、水をかける、保冷剤を当てるなど、積極的に体を冷やす
・医療機関へ搬送する
■重症度III度(重症)
<代表的な症状>
・意識障害
・けいれん
・運動障害(真っすぐに歩けない・走れない等)
・おかしな言動や行動
・体が熱い
<対処法>
II度の対処法に加えて
・迷わず救急車を呼ぶ
応急手当てのポイント
・エアコンが効いた屋内や風通しの良い日陰、公共施設など、涼しい場所へ移動
・衣服を緩め、安静に寝かせる
・エアコンを使用する、扇風機やうちわなどで風を当て、体を冷やす
・首の周り、脇の下、太ももの付け根など、太い血管が通る部分を冷やす
・体を冷やすには、保冷剤や氷まくら、冷えたペットボトル、氷を入れたビニール袋、ぬれたタオルなどを使う
・水分・塩分、経口補水液などを補給
・自分で水が飲めない、応答がおかしい場合は、ためらわずに救急車を呼ぶ
1人でいるときに熱中症が疑われたら
1人暮らしの人や、1人でいるときに熱中症が疑われる症状がある場合は、軽症であれば自分でI度(軽症)の対処法にある応急手当てを行いましょう。風通しの良い涼しい場所やエアコンが効いた屋内に移動し、衣服を緩め、ぬらしたタオルや氷のうを太い血管が通る首の周り、脇の下、太ももの付け根に当てたり、扇風機などで体を冷やし、水分・塩分を補給しましょう。自分で水分を摂取できない、応急手当てをしても症状が改善しないときは、すぐに医療機関の受診が必要です。自力で受診できない場合は、すぐに誰かに医療機関に連れて行ってもらうか救急車を要請しましょう。
2. 熱中症の発生状況
「熱中症による救急搬送状況」*1によると、2023(令和5)年は約91,467人が熱中症により救急搬送され、2008(平成20)年の調査開始以来、2番目に多い搬送人数を記録しています。月別に見ると、7月が36,549人と全体の約4割を占め最多となっており、体が暑さに慣れていない梅雨明け前後に、熱中症の発生が多いことが分かります。
年齢区分別では、65歳以上の高齢者が最も多く、全体の54.9%と半数以上を占めています。
また、発生場所別では、住居(敷地内すべてを含む)での発生が約4割と最も多くなっています。
初診時における傷病程度別では、熱中症により救急搬送された人のうち、軽症が最も多く、全体の67.2%、入院が必要な中等症・重症が32.2%でした。
なお、統計*2によると、2022(令和4)年の熱中症による死亡者数は、1,477人となっており、うち65歳以上の高齢者が86.25%を占めています。
*1 総務省消防庁「熱中症情報」 令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況
https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html#heatstroke02
*2 厚生労働省「人口動態調査」 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
3. 熱中症の原因
熱中症とは
熱中症は、高温や多湿の環境下で、体内の水分、塩分のバランスが崩れ、体温調節機能が働かなくなり、体温上昇、目まい、意識の異常などさまざまな障害が起こる症状のことです。
熱中症が起こる仕組み
ヒトは体温を正常に保つために、体内にたまった熱を血液循環によって体の表面に運び、皮膚から外気に放散します。しかし、外気温が高いときは、熱を逃しにくくなり、主に汗の蒸発による気化熱が体温を下げる役割を果たします。汗をかくと、体から水分と塩分が排出され、体内の水分・塩分が不足し、血液の流れが悪くなります。この結果、熱の放散が滞って、体内に熱がたまり、熱中症が起こるのです。
熱中症を引き起こす条件
■熱中症が起こりやすい環境
・気温が高い
・湿度が高い
・風が弱い
・日差しが強い
・閉め切った室内
・エアコンがない、エアコンを使用しない
・急に暑くなった日
・厳しい暑さが続くとき
<具体例として>
運動場、体育館、一般家庭の風呂場、調理中のキッチン、気密性の高いビルやマンションの最上階、工事現場など
■熱中症になりやすい人、体の状態
・高齢者、乳幼児
・肥満
・体に障害のある人
・持病(糖尿病、心臓病、精神疾患、広範囲の皮膚疾患など)がある人
・低栄養状態
・脱水状態(下痢、インフルエンザなど)
・体調不良(二日酔い、睡眠不足など)
■熱中症を起こしやすい行動
・激しい運動
・長時間の屋外作業
・慣れない運動
・水分が補給しにくい行動
4. 熱中症の予防
熱中症対策の主なポイントは、屋外・室内を問わず「暑さを避ける」、喉が渇いていなくても「小まめに水分を補給する」ことです。猛暑を乗り切る熱中症の予防策を紹介します。
■暑さを避ける
<室内では>
・扇風機やエアコンで温度を調節。室温28℃を目安に、エアコンや除湿機能を使用し、適切な温度を保つ
・窓から差し込む日光を遮る。遮光カーテン、すだれ、緑のカーテンなどを利用する
・室温を小まめに確認する。冷房の設定温度と、室温が同じとは限らないので注意する
・風通しを利用する
<屋外では>
・日傘や帽子を使う
・天気の良い日は、日陰の利用、小まめな休憩をとる
・天気の良い日は、日中の外出を控える
・気化熱を利用し、夕方に打ち水をする
<衣服の工夫>
・ゆったりとした、風通しの良い衣服を選ぶ
・通気性の良い、吸湿性・速乾性のある衣服を着用する
・炎天下では、輻射(ふくしゃ)熱を吸収する黒系の色の物を避ける
・保冷剤、携帯型扇風機などのグッズを活用する
■小まめな水分補給
屋内でも外出時でも、喉の渇きを感じていなくても小まめに水分を補給しましょう。
特に、湿度が高い日や風が弱い日は、汗をかいても蒸発しにくくなり、汗の量も多くなります。汗を多くかいたときは、十分な水分と塩分を補給しましょう。また、高温多湿な場所での作業やスポーツなどで大量の汗をかいたときは、水分・塩分・糖分をバランスよく摂取できるスポーツドリンクや経口補水液で水分を補給するとよいでしょう。アルコールやカフェインを多量に含んだ飲料は利尿作用があり、水分補給には適しません。
■暑さ指数(WBGT)、「熱中症警戒アラート」、「熱中症特別警戒アラート」を行動の目安に
環境省「熱中症予防情報サイト」では、全国約840地点の暑さ指数(WBGT)の実況値、予測値等の熱中症予防情報を提供しています。日最高暑さ指数の予測値を基に、熱中症の危険性が極めて高いと予測される「熱中症警戒アラート」、「熱中症特別警戒アラート」の発令中は、外出をできるだけ控え、暑さを避けましょう。
環境省「熱中症予防情報サイト」
■暑さに備えた体づくり
熱中症が多発するのは、毎年多くの人がまだ暑さに慣れていない、梅雨明けの時季です。暑い日が続き、体が次第に暑さに強くなることを「暑熱順化」といい、暑さによる生理的ストレスを軽減し、汗のかき始めが早くなります。暑熱順化は、毎日30分程度のウォーキング等の運動や、湯船にお湯をはって入浴を継続することで獲得でき、熱中症にもかかりにくくなります。
■日頃の生活から体調を整える
熱中症は、体調や健康状態が悪いと発症しやすくなります。バランスの取れた食事と十分な睡眠で日頃から体調を整え、熱中症を防ぎましょう。食事抜きは避け、少量でも3食をきちんと取りましょう。快適に眠れる室温の上限は、28℃といわれています。エアコンの使用、寝具など、夜間の睡眠環境を整えてしっかり眠ることを心掛けましょう。
■マスク着用時のポイント
感染症対策によりマスクを着用する場合は、体調に応じて屋外で人と十分な距離(2m以上)を確保できるときは、マスクを外しましょう。また、マスク着用時は、激しい運動は避け、喉が渇いていなくても小まめに水分を補給しましょう。
5. まとめ
日本特有の高温多湿の気候に、地球温暖化や都市の温暖化(ヒートアイランド現象)が加わり、夏の暑さはますます厳しく、熱中症対策の必要性も増しています。本格的な暑さを迎える前に、熱中症予防のポイントを確認し、特に注意が必要な子どもや高齢者がいる家庭では、生活環境や体調の管理を心掛けましょう。
原稿・社会保険研究所Copyright
<編集部より>
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参考
- *1 総務省消防庁「熱中症情報」 令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況
https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html#heatstroke02
- *2 厚生労働省「人口動態調査」 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」
https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php
- 厚生労働省「熱中症を防ぎましょう」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/prevent.html
※当記事は、2024年6月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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