食中毒は、暑くてジメジメした夏だけに発生するものと思っていませんか。実は、食中毒は年間を通して多く発生しています。食中毒の発生件数が多い、原因となる細菌やウイルスの特徴、自宅でできる食中毒予防のポイントを知り、自分や家族の健康と安全安心な食生活を守りませんか。
目次
1.食中毒の原因
食中毒の原因は、主に細菌、ウイルス、魚介類に寄生する寄生虫で、その他にもきのこ、野草などによる自然毒やヒスタミン、薬品(漂白剤)などの化学物質による食中毒もあります。細菌による食中毒は、気温や湿度が高くなる梅雨時(5月~6月)や夏場(7月~9月)に多く、ウイルス性の食中毒は、冬(12月~3月)に多く発生します。そのため、年間を通して、食中毒の予防が必要になります。
以下が、食中毒の原因となる代表的なウイルスと細菌です。
ノロウイルス
国内で最も発生件数が多い、食中毒の原因となるウイルスで、11月~3月の冬季に多く発生しています。有効なワクチンや特効薬がなく、少量のウイルスでも感染し、感染力が強いため予防の徹底が大切です。
主な感染経路は、「経口感染」です。「食品からの感染」は、ノロウイルスに汚染された食品を十分に加熱せずに食べた場合や、ノロウイルスに感染した人が調理してノロウイルスが付着した食品を口にした場合などがあり、汚染されたカキやその他の二枚貝による感染も多く発生しています。「ヒトからの感染」は、感染者の嘔吐(おうと)物や排泄(はいせつ)物に触れてノロウイルスが手に付着したり、感染者が十分に手を洗わずに触れたドアノブなどを介して感染します。
【主な症状】
感染した場合は、乳幼児から高齢者まで約24~48時間の潜伏期間をもって発症し、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などの症状が出ます。通常、これらの症状が1日~2日続いた後に治まりますが、持病がある人、免疫力のない乳幼児、抵抗力の衰えた高齢者などは脱水症状を起こしたり、症状が重くなることがあるため注意が必要です。
カンピロバクター
ニワトリやウシなどの腸管内に生息する細菌で、比較的少ない菌数でも感染します。熱に弱く、通常の加熱調理で死滅します。高温、高湿度で菌が増加しますが、カンピロバクターによる食中毒は年間を通して発生しています。大半は、飲食店での食事による感染ですが、市販の鶏肉にも菌が見つかっているため、自宅での鶏肉の調理や取り扱いにも注意が必要です。また、ペットも保菌しているため、ペットに触った後は十分に手を洗い、調理をすることが大切です。
【主な症状】
感染すると、1日~7日で下痢、腹痛、発熱などの症状が出ます。まれに、その後に手足・顔面神経のまひや呼吸困難を起こす、ギラン・バレー症候群を発症することがあります。
ウェルシュ菌
ヒトや動物の腸管内や土壌、河川など自然環境に常在する菌で、100℃で1時間の加熱にも耐える芽胞(がほう)を作る、熱に強い細菌です。また、嫌気性で酸素の少ない状況や、12~50℃の気温で増殖する特徴があり、大量のカレーや煮込み料理などを常温で放置しておくと菌が増殖し、芽胞が放出する毒素によって食中毒を引き起こします。この毒素は、十分な加熱によって不活性化し、発症には多くの菌量が必要なため、食品の加熱殺菌と菌が増殖しない管理をすることが重要です。
【主な症状】
ウェルシュ菌による食中毒の発症は、食後6~18時間の潜伏期間で、腹痛や下痢などを起こし、多くは1日~2日で治まります。
リステリア
妊娠中に注意が必要な食中毒菌として、リステリアがあります。リステリアは、通常の加熱によって死滅しますが、低温や高い塩分濃度でも増殖する特徴があります。冷蔵庫に長期間保存され、加熱されずそのまま食べられるナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモンなどの食品は、食中毒の原因となり得るため注意が必要です。妊娠中に、リステリアによる食中毒に感染した場合、胎児や新生児に影響が出ることがあります。
2.食中毒を防ぐために
食中毒の予防は、原因となる細菌を「付けない」「増やさない」「やっつける」が、ウイルスの場合は「持ち込まない」「広げない」「付けない」「やっつける」が基本となります。食品に細菌やウイルスを付着させないように手や調理器具をしっかり洗い、低温保存や、食材の中心部までの十分な加熱を心掛けましょう。
食中毒を予防するポイント
食中毒を防ぐために、食材の購入から残った食品の保存までの以下の6つの過程において、自宅で実践すべきポイントを紹介します。
(1)食材を買う
・消費期限を確認する
・肉や魚などの生鮮食品や冷凍食品は最後に買う
・肉や魚は汁が他の食材に付かないようにビニールに入れる
(2)食材を保存する
・買った物はすぐに冷凍庫や冷蔵庫に入れる
・消費期限内で早めに食べるようにする
・臭いや色に異常があったら、迷わず処分する
・冷蔵庫や冷凍庫に食品を詰め込み過ぎない
・一度解凍した食品の再冷凍はしない
(3)調理の前の下準備
・調理の前に丁寧に手を洗う
・野菜(カット野菜も)などの食材は流水できれいに洗う(生肉は洗わない)
・冷凍したものは冷蔵庫や電子レンジで解凍する
(4)調理をする
・肉や魚は十分に加熱する(中心部分の温度が75℃で1分間以上)
・食材を使った後は必ず手を洗う
・調理器具をしっかり洗浄する
・包丁やまな板は肉用、魚用、野菜用と別々の物を使う
(5)食事をする
・食べる前にせっけんで手を洗う
・清潔な食器を使う
・作った料理は、長時間、常温で放置しない
(6)残った食品は
・残った食品を扱う前にも手を洗う
・清潔な容器に保存する
・すぐに冷えるように小さな容器で保存する
・温め直すときも十分に加熱する
・保存して時間がたち過ぎたものは思い切って捨てる
・ちょっとでも怪しいと思ったら食べずに捨てる
ウイルスによる食中毒を予防するポイント
ノロウイルスなどのウイルスは、食品中で増えることはありません。ウイルスを「付けない」「やっつける」に加えて、調理する場にウイルスを「持ち込まない」、感染者からの二次感染を「広げない」対策を徹底することが大切です。自宅でできる予防のポイントを紹介します。
・食品、食器、調理器具に触れるときは、事前に丁寧に手を洗う
・加熱して食べる食品は、中心部までしっかり火を通す(中心部分の温度が85~90℃で90秒以上の加熱が必要)(*)
・調理器具や調理台は洗剤で洗浄後、85℃以上の熱湯で1分以上の加熱消毒
・腹痛や下痢などの症状があるときは、食品に触れる作業はしない
(*)加熱温度について:食中毒菌はそれぞれ死滅する温度が異なります。一般的に75℃で1分間加熱することで大半を殺菌することができますが(上記、食中毒を予防するポイント(4)調理をする)、ノロウイルスの場合は90℃で90秒以上の加熱が必要とされています。
3.食中毒が疑われるときは医療機関へ
食中毒が疑われる症状が強く表れたときは、自己判断せずになるべく早く医療機関を受診してください。特に持病のある人、乳幼児、高齢者は重症になりやすいため、注意が必要です。
食中毒の疑いがある症状
このような症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
・腹痛
・下痢
・吐き気
・嘔吐
・発熱
・血便 など
症状が出たらどうすればいい?
・水分を取って脱水症状を防ぐ
・市販薬の下痢止めは症状が悪化する恐れがあるため服用しない
・なるべく早く医療機関を受診
こんなときは、ためらわずに救急車を
・嘔吐で水分が取れない
・下痢や腹痛が悪化する
・血便が出る
・息苦しくなる
・意識がもうろうとする
・高熱が続く
ノロウイルスによる食中毒になった場合
ノロウイルスは少量で感染する、感染力が強いウイルスです。感染者の便や嘔吐物から多くのウイルスが排出されるため、周りの人に感染が広がるリスクがあります。ノロウイルスによる食中毒と思われる症状が表れた場合は、無理に職場や学校には行かずに、必ず医療機関へかかりましょう。ノロウイルスと診断された場合は、その旨を職場や学校に連絡し、医師の許可が出るまで自宅で休養しましょう。
家族や身近な人にノロウイルスによる食中毒が発生したときには、感染を広げないために食器や周囲の生活環境の消毒を徹底しましょう。
原稿・社会保険研究所Copyright
<編集部より>
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参考
- 農林水産省 「食中毒は年間を通して発生しています」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/statistics.html
- 厚生労働省 「家庭での食中毒予防」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/01_00008.html
※当記事は、2024年4月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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