3月3日は「耳の日」です。「耳」は、外部から音で情報を得たり、人の話を聞いたりするための重要なコミュニケーションツールであり、音楽や映画、自然の音色などを楽しんだり、生活に欠かせない「聴覚」と「平衡」を担う大切な器官です。加齢などによるこれらの機能低下が、認知症やうつ病の原因にもなるといわれますが、「人生100年時代」、これからの長い人生をいつまでも〝快聴″で〝安定″した健康な耳を保つために、耳について考えてみませんか。
目次
1. 聞くだけではない「耳」の重要な役割
耳の機能の第一は、「聴覚」です。耳は、外耳・中耳・内耳の3つの部分で構成されています。
外耳で集められた周囲の音が、中耳の鼓膜を振動させます。その振動が、3つの小さな骨(耳小骨)を介して内耳に伝わります。そして、内耳の渦巻き状の管(蝸牛[かぎゅう])が振動を電気信号に変えて、聴神経を介して音の情報を脳に伝えるのです。このような複雑で繊細な仕組みによって、私たちの「聞く」は成り立っています。
もう一つの耳の重要な役割は、「平衡」です。内耳の蝸牛につながる三半規管と前庭は、身体のバランスを保つ働きがあります。目まいの大半が、耳が原因というのも、この内耳の平衡機能に障害が起こることによります。
この「聴覚」と「平衡」という重要な役割を果たす、耳の健康を保つことは、私たちの日常生活を守ることにつながります。
2. 若くても起こる難聴の原因
ここでは、若者にも多く見られる「難聴(音が聞こえづらい)」の原因について、代表的なものを取り上げます。
突発性難聴
ある日突然、片方の耳が聞こえにくくなる病気です。目まいを伴うこともあります。幅広い年代の人に発症し、はっきりした原因は分かっていませんが、ストレスや疲労、睡眠不足などによって起こると考えられています。
突発性難聴で、最も重要なことはできるだけ早く治療をすることです。突発性難聴は、再発しないという特徴があります。しかし、内耳にある蝸牛の内部には音を感じる神経「有毛細胞」があり、この細胞が障害を受けた場合、放っておくと神経変性が起こり、聴力が戻らないこともあります。
難聴や目まいが現れたら、できるだけ1週間以内に耳鼻科を受診し、早期にステロイド薬などの処方を受けると、基本的に1~2週間で治ります。
音響外傷
大きな音が原因となり、内耳の有毛細胞が傷つき、音が聞こえにくくなる病気です。コンサートやクラブなどで大音量にさらされ難聴や耳鳴り、耳がふさがったような感じなどになるのが「急性音響外傷」で、突発性難聴と同様に1週間以内の治療が大切です。
10代~30代に多く発症するのが、「慢性音響外傷」で、ヘッドホン難聴・イヤホン難聴ともいわれます。ヘッドホンやイヤホンで大きな音を長時間聞き続けることなどで、内耳の有毛細胞が徐々にダメージを受け、音が聞こえにくくなったりします。慢性音響外傷は、完治しにくいとされるため、ヘッドホンやイヤホンの使用時間や音量に注意が必要です。
急性低音障害型感音難聴
ストレス、慢性的な疲れなどが原因で、低音だけが突然聞こえにくくなるもので、耳が詰まったような感覚や低音の耳鳴りなどの症状があります。比較的若い女性に多い病気で、ステロイド薬などの治療または自然治癒により治りやすい難聴ですが、再発もしやすい傾向が見られます。繰り返すことで徐々に進行しないよう、治癒後もストレスをためないなどの注意が必要です。
中耳炎
鼻風邪などをこじらせて、耳管から中耳に化膿(かのう)菌が入り込み炎症を起こすのが急性中耳炎です。中耳の粘膜が腫れたりうみが出たりして、強い痛みが出ますが、難聴の程度は軽く、ほとんどが治療で回復します。
子どもに多い病気ですが、高齢者が急性中耳炎が治りきらずに重症化すると、鼓膜の内側にうみがたまり難聴、耳閉感、耳鳴りなどが起こる滲出(しんしゅつ)性中耳炎のリスクがあります。さらに長期化すると鼓膜に穴ができ、難聴や耳だれなどの症状が出る慢性中耳炎を発症することがあります。早期に適切な治療を行うことが必要です。
メニエール病
突然の回転性の目まいと難聴の発作を繰り返しながら、難聴が低音から徐々に進んでいきます。内耳の三半規管と蝸牛の内リンパ液の過剰が原因と考えられていて、壮年期に多く発症しますが、若年層にも見られます。薬による治療が行われますが、きっかけとなる疲労やストレスを避けることが大切です。
耳垢栓塞(じこうせんそく)
耳あかが詰まって、外耳がふさがり、聞こえにくさ、耳閉感、耳鳴りなどが起こります。耳あかは、パサパサのドライな乾性耳垢と、ねっとりした湿性耳垢の2タイプがあり、日本人の多くは乾性耳垢といわれます。乾性耳垢は、本来自然と外に出ますが、綿棒や耳かきで耳掃除をするとき、耳あかを外耳の奥に押し込んでしまうと、耳垢栓塞を引き起こします。
3. 耳の健康を守る生活
大切な耳の健康を保つために、普段の生活の中でできることを紹介します。
ヘッドホン・イヤホンは音量と使用時間に注意
WHO(世界保健機関)は、成人がヘッドホン・イヤホンを使用して、80dBで1週間当たり40時間以上(1日当たり約5.7時間)、98dBで1週間当たり75分以上の音を聞き続けると、ヘッドホン難聴、イヤホン難聴を起こすリスクがあるとしています。前述の音響外傷を防ぎ、耳の健康を保つには、ヘッドホンやイヤホンを使用するときは音量を下げ、1時間使用したら外して10分ほど耳を休ませましょう。
【騒音レベル(dB)の目安】
80~90dB パチンコ店内、ゲームセンター店内
70~80dB 航空機の機内、地下鉄の車内
60~70dB 新幹線の車内、バスの車内、ファミリーレストランの店内
50~60dB 博物館の館内、銀行の窓口周辺、書店の店内
40~50dB 美術館の館内、図書館の館内
疲労・ストレスをためない
突発性難聴やメニエール病など、ストレスや疲労が耳の病気のきっかけとなることがあります。日頃からストレスや過労を避け、睡眠を十分にとるように心掛けましょう。また、バランスの良い食事や適度な運動など、自律神経を整える生活が、耳の健康にもつながります。
耳掃除は入り口だけに
耳あかは、自然と外に出てくるので、本来耳掃除は必要ありません。耳あかを取るつもりで外耳の奥に押し込んでいたり、耳掃除のし過ぎで外耳炎を起こしたり、耳のトラブルの原因となることもあります。耳あかが気になるときは、月に1回、耳の入り口から1cm程度までの外から見える耳あかだけをそっと取り除くようにしましょう。
耳の健康に良い食事
耳の健康には、栄養バランスの取れた食生活を続けることが大切です。ビタミンやミネラルが豊富な海藻類やほうれんそう、血流を改善するさばやぶりなどの青魚、骨を丈夫にする鶏もも肉やさやえんどう、しらす、ごまなどの食材を積極的に取りましょう。
4. まとめ
突発性難聴や音響外傷のように、耳の病気は早期に治療しなければ完治しないこともあります。また、内耳から音の情報を伝える聴神経が脳とつながっていることから、難聴の原因が脳の疾患である場合もあります。よって、耳の異常があれば自己判断や放置はせず、できるだけ早く耳鼻科を受診しましょう。
原稿・社会保険研究所Copyright
<編集部より>
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参考
- 環境省 一般環境騒音について「騒音の目安」
https://www.env.go.jp/air/ippan/
※当記事は、2024年3月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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