子どもの調子が悪いときに、受診すると「おなかの風邪ですね」と言われることがあります。咳や鼻水も出ないのに「風邪」と言われると不思議に感じるでしょう。ですが風邪と同じように人にうつりやすい病気であるため、子どもの様子を見るときは注意する必要があります。今回は「おなかの風邪」とは何か、どのようなときに受診したらいいのか、また症状があるときの療養について解説します。(以下、医師監修による記事です)
目次
1.おなかの風邪と呼ばれるウイルス性(感染性)胃腸炎について
「おなかの風邪」は通称であり、さまざまな原因を総称して呼ばれる言葉ですが、多くの場合は「ウイルス性胃腸炎」を指します。風邪と呼ばれているのも、人から人へうつる病気であることから由来しています。
1.1 ウイルス性(感染性)胃腸炎とは
ウイルス性(感染性)胃腸炎とは、その名の通りウイルス(ロタウイルス・ノロウイルスなど)または細菌の感染が原因となって起こる胃腸炎で、毎年秋から冬にかけて流行します。乳幼児がかかりやすく、特に1歳以下の乳児は症状の進行が早いため注意する必要があります。
ロタウイルスの場合は、激しい嘔吐以外に発熱もあり、米のとぎ汁のような白っぽい下痢が出ます。合併症として、肝機能異常・急性腎不全・脳症などがあります。重症化しなければ、1週間ほどで症状がおさまっていきます。
ノロウイルスは感染力の強いウイルスで、主に冬に流行します。1~2日の潜伏期間ののち、突然の嘔吐があり、下痢や腹痛・発熱が伴うことがあります。通常は1~2日ほどで症状がおさまりますが、1週間以上は便の中にウイルスが排出されるため、注意が必要です。
他に原因となるウイルスや細菌には、エンテロウイルス・アデノウイルス・サルモネラ・カンピロバクター・病原性大腸菌といった細菌があります。細菌の場合には、抗菌薬(抗生物質)の服用が必要になることがあります。また脱水症状が悪化したときには、点滴を行うのが効果的です。
1.2 保育園などは休むべきか
ウイルス性(感染性)胃腸炎は、下痢や嘔吐、あるいはそれらを触った手から他の園児にうつる可能性があります。
特にノロウイルスの場合は、症状がなくても便にウイルスが含まれるため、トイレ使用後に触るものにウイルスが付着する可能性があります。
ウイルス性(感染性)胃腸炎は、「学校保健安全法」で定める、保育所や学校で出席停止を指示することができる感染症には指定されていないため、明確に何日休むべきという基準はありません。
しかし、厚生労働省は「保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版・2023年5月一部改訂)」の中で「保育所内での感染を防止するためには、それぞれの感染症の特性を考慮した上で、症状が回復して感染力が大幅に減少するまでの間、罹(り)患児の登園を避けるよう保護者に依頼する等の対応を行うことが重要」(※1)と周知しています。
なによりも、症状が出ている中で外出することできつい思いをするのは子どもです。かかりつけ医による登園許可が出るまで自宅で療養しましょう。
【出典】
※1:厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版)・2023年5月一部改訂」(2018(平成 30)年 3 月)
https://kodomoenkyokai.or.jp/wp-content/uploads/2023/05/60342170aa360b5cce6f4ffe341a8a6c.pdf
2.症状と受診のサイン
ウイルス性胃腸炎全般についてどんな症状が出るのか、また受診を検討すべきタイミングについて解説します。
2.1 ウイルス性(感染性)胃腸炎の症状
先述したとおり、ウイルス性(感染性)胃腸炎の主な症状は嘔吐と下痢です。症状が進行すると脱水症状が現れ、食欲の低下・頭痛・だるさを感じます。
さらに症状が長引くと、再び嘔吐したりけいれんしたりすることがあります。
症状には個人差があり、嘔吐または下痢しかない場合や、嘔吐の後に下痢がみられる場合などさまざまです。時には37〜38度の発熱がみられることもあるため、注意する必要があります。年長児では、吐き気や腹痛を訴えることもあります。
2.2 こんな場合にはすぐに受診を
下痢が出た場合、ウイルス性(感染性)胃腸炎の疑いがあるため、すぐにホームケア(自宅でのケア)を開始してください。下痢の原因で一番多いのはウイルス性(感染性)胃腸炎です。
下痢による脱水がひどくなると、水分がとれなくなることでさらに症状が進み、意識障害につながることもあります。そのときにはすぐに救急車を呼んでください。熱が出る場合には発熱初期に熱性けいれんを起こしやすく、熱がなくても5~10分以上けいれんが止まらなければ救急車を呼びましょう。
3.症状がある場合の対処法と食事
ウイルス性(感染性)胃腸炎にかかった場合の対処法と、療養期間中に気を付ける食事について解説します。
3.1 対処法
ウイルス性(感染性)胃腸炎のときは、下痢止めなどの薬で下痢をむやみに止めるようなことは避けましょう。下痢を止めてしまうと、かえってウイルスや細菌を外に出す作用を妨げてしまいます。
特に注意したいのは、脱水症状です。体内の水分量が多い低年齢の子どもほど、脱水になりやすいといわれています。水分摂取には、経口補水液(赤ちゃん用イオン水)を用いるようにしましょう。
また接触感染で広がりやすいので、タオルの共用をしない、トイレもできれば共有しない、共有する場合には消毒するといった対応を行います。嘔吐やオムツを処理するときには、ゴム手袋を使うなど直接触らないようにしてください。消毒をする際には塩素系消毒薬(次亜塩素酸ナトリウム等)を使いましょう。
3.2 療養期間中の食事
嘔吐がある場合には、半日〜1日で治まることが多いです。嘔吐して 30 分~60 分程度後に吐き気がないようであれば、様子を見ながら、まずは経口補水液を少しずつ与えましょう。冷やしたものではなく、常温がおすすめです。酸味のあるジュースなどは嘔吐を誘発することがあります。
嘔吐がおさまり食事をとれるようになったら、おかゆやおにぎりなど消化の良い食べ物から食べ始め、症状が全ておさまったら普通の食事にもどしていきましょう。
スパイス入りで刺激のある食べ物や冷たい飲み物・炭酸飲料は、胃腸を刺激してしまうため避けましょう。また炒めもの・ものなど脂質の多い食事は胃腸に負担がかかり、消化しにくいため下痢が長引く原因となってしまいます。
麦茶や常温の飲み物、スープをとるようにしましょう。消化の良い食べ物として、主食は精白米・パン・麺類などの炭水化物のほか、繊維質の少ない野菜を選びます。おかずのタンパク質は卵・豆腐・白身魚がおすすめです。例えば、主食にはお粥・卵粥・素うどん、おかずには焼き魚、大根の煮物、豆腐の味噌汁など、あたたかく胃腸にやさしいものを選びましょう。
下痢のときには、スープの具材としてキャベツ・大根・にんじん・玉ねぎなどを入れてみてください。
4.症状がおさまるまでは様子を見て
今回は「おなかの風邪」について、その症状や受診の目安・症状があるときの療養のしかたについて解説してきました。
子どもに頻発する症状ですが、家庭内や保育施設で他の人に感染する可能性があるため、症状がきちんとおさまるまでは様子を見ることが大切です。もし症状が悪化したり一週間程度回復しなかったりする場合には、かかりつけ医を受診しましょう。
<編集部より>
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≪執筆者プロフィール≫
訪問看護師ライター・那賀嶋幸恵(なかじまゆきえ)
新卒で急性期病院へ従事したのち、デイサービスや特別養護老人ホームなど様々な看護の場を経験。現在は訪問看護ステーションにて在宅医療の現場をみつつ、医療福祉のあり方を日々発信中。
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≪監修者プロフィール≫
細部小児科クリニック 院長 細部千晴
1987 年藤田医科大学卒業。名古屋市立大学病院、日本医科大学病院などを経て 2008 年独立開業。男の子2人の母親であり、孫も2人。自らの子育て、孫育て経験を活かし、地域の子育て支援やペリネイタルビジット(出産前出産後小児保健指導)をライフワークとして診療に携わっている。
近著『この1冊で安心 はじめての育児辞典』朝日新聞出版、『「どうする?」がわかる赤ちゃんと子どもの病気・ケガ ホームケアBOOK』ナツメ社
参考
- 厚生労働省「感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-18.html - 厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版)・2023年5月一部改訂」(2018(平成 30)年 3 月)
https://kodomoenkyokai.or.jp/wp-content/uploads/2023/05/60342170aa360b5cce6f4ffe341a8a6c.pdf - 福島県保健福祉部 健康増進課「かぜ・下痢・便秘のときの食生活」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/download/1/saigaisien-eiyou-6.pdf - 大阪市ホームページ「こどもの体調に合わせた食事のポイント」
https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000039589.html
※当記事は2023年7月時点で作成したものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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