子育て中の家庭にとって、「毎日の家事」は想像以上に大きな負担です。日々の中で、負担になり気づかないうちに心の余裕が削られ、ふとした孤独や不安を感じることも少なくありません。本来、誰かと分かち合えるはずの子育てが、いつの間にか“ひとりで抱えるもの”になってしまう「孤育て」の状態です。そんな現状に「家事」という切り口から「孤育て防止」支援を届けている人がいます。社会福祉士の資格を持ち、児童養護施設での勤務経験を経て「家事代行ソーシャルワーカー」として活動する、麻生さおりさん(以下、さおりさん)です。
目次
「家事代行ソーシャルワーカー」という新しい選択肢。“家事をする”ではなく、“家庭を支える”仕事
さおりさんの家事代行は、「家事をすること」そのものを最終目的としていません。食事作りや掃除、洗濯といった家事を手伝いながら、家庭の中に自然に溶け込み、小さな変化やサインに気づくことで、困りごとを一緒に解決していくことを目指しています。必要に応じて、制度や地域資源へそっとつなぐこともあります。
あえて「料理代行」や「お掃除サービス」といった名称ではなく、「家事代行ソーシャルワーカー」と名乗るのは、“家事をこなすこと”そのものではなく、相手との関係を築きながら、“家庭が安心して回る状態をともにつくること”が本質だと考えているからです。
ソーシャルワーカーを目指したきっかけと、家事代行ソーシャルワーカー原点となったある姉妹との出会い
さおりさんがソーシャルワーカーを志したきっかけは、中学生の頃、クラスメイトとの会話を通して、さまざまな家庭環境があることを知った経験でした。
手作りの温かいご飯がない家庭。毎日洗濯された洋服を着られない家庭。帰宅しても、親は仕事や家事に追われ、ほとんど会話がない家庭がある。そんな現実に触れ、「自分にとっての“当たり前”は、決して当たり前ではない」と感じたといいます。
その経験から、「子どもが安心して暮らせる生活環境をつくる仕事がしたい」と考えるようになり、ソーシャルワーカーの道へ進みました。その後、現在の活動につながる大きな転機となったのが、大学卒業後に勤務していた児童養護施設での出来事です。
ある日、施設で生活していた高校生の女の子が突然いなくなりました。探し回る中で、さおりさんは初めて彼女の実家を訪れます。
そこはいわゆる“ゴミ屋敷”と呼ばれる状態の家でした。人が生活している温度を感じられない空間。その家の中には、施設からいなくなった彼女と、小学生くらいの妹の姿がありました。その光景を目の当たりにしたとき、さおりさんの中にひとつの問いが生まれます。
「施設で子どもたちを引き取れば、生活環境を守ることはできる。しかし、子どもたちが本当に望んでいるのは、“家庭そのもの”で暮らすことではないか」
一方で、施設という立場からは、家庭環境そのものを直接支えることには限界がありました。
そこに大きなギャップを感じたさおりさんは、「この家で、この子たちが安心して暮らせる環境をつくるには、何が必要なのだろう」「家庭に最も近い場所でできる支援とは何か」を考えるようになります。
そして、その答えとしてたどり着いたのが、「家事代行」というアプローチでした。
家事をしながら、心の声を聞く。日常の延長で「支援する・支援につなぐ」
さおりさんが支援の中で大切にしているのは、「目に見えることだけで判断しないこと」です。ソーシャルワーカーとして、社会的支援が必要ないわゆるグレーゾーンの家庭だけでなく、一般家庭や比較的余裕のある家庭とも積極的に関わっていることも、家事代行ソーシャルワーカーとしての強みのひとつです。
さまざまな家庭と関わることで、特定のケースに偏ることなく、それぞれの家庭に起きている変化をフラットな視点で捉えることができるといいます。
どの家庭にも、その家ごとの背景や積み重ねがあります。だからこそ、目の前の状況を一方的に評価するのではなく、自分自身の「当たり前」に当てはめないこと。そして、その背景を知ろうとする姿勢や、ありのままを受け止めることを何より大切にしています。
これまで多くの家庭と関わってきた経験から、「ちゃんとしなければ」「迷惑をかけてはいけない」と頑張っている方ほど、自分のしんどさにふたをしてしまう傾向があると語ります。
洗濯物をたたみながら、料理をしながら、何気ない会話を重ねていく。その時間の中で、少しずつ心がほどけていきます。家事という“目的がある関わり”だからこそ、構えずに話せる。その自然さが、その先に続く支援の入り口になっています。

人気は「つくりおき」
「孤育て」を防ぐために。ゴールは“自分で歩けるようになること”
児童養護施設での経験を通して、さおりさんが強く感じているのは、「母親の孤独」が家庭の課題を深めてしまうケースの多さです。
いわゆる「孤育て」は、必要な情報が届きにくくなるだけでなく、助けを求めることそのものを難しくしてしまいます。
家事代行ソーシャルワーカーとして、最終的に目指しているのは、常に頼ってもらうような依存関係ではなく、その家庭が“自走できる状態”になることです。
支え続けることではなく、「自分の力で歩いていけるようになること」こそが、本当の支援だと考えています。
そのため、「サービスを減らしたくなったら、いつでも言ってくださいね」と利用者へ伝えていることも、家事代行ソーシャルワーカーとしての特徴のひとつです。
「支援が必要になってからでは、遅いこともある。だからこそ、もっと手前の段階で関わりたい」その想いが、現在の活動の軸となっています。

親子食堂「カフネ」という居場所。“さりげなくつながる”支援のかたち
家事代行ソーシャルワーカーとしての経験を活かし、地域の中で“居場所づくり”や“情報交換・情報提供の場づくり”にも取り組んでいます。
そのひとつが、北品川の古民家で、品川区の子育て支援団体として立ち上げた「親子食堂 カフネ」です。
「“美味しいね”と笑いながら、みんなでご飯を食べたのは久しぶりでした」
「引っ越してきたばかりで不安だったけれど、ここに来て友だちができました」
そんな声も寄せられ、地域の親子にとって大切な居場所のひとつとなっています。
また、親子食堂などの活動の中では、ティーペックの健康相談サービスや、お正月休みに受診できる医療機関を検索できる「年末年始当番医検索」についても、「こういうサービスもありますよ」と自然な形で紹介してくれています。
「知らなかった!あの時使いたかった!」「よく利用しています」といった声も寄せられており、ティーペックにとっても、利用者のリアルな声を直接聞くことができる貴重な機会となっています。
現在は、都内だけでなく大分にも活動の幅を広げています。
今後、大分でも家事代行ソーシャルワーカーとしての活動や、「カフネ」のような居場所づくりが広がっていくことが期待されます。

最後に:「ひとりで頑張らない」という選択が、子育てをもっと軽やかにしてくれます。
子育ては、ひとりで抱え込むものではありません。ただ、現実は「頼ること」に迷いや遠慮を感じてしまう方も多いのではないでしょうか。家のことを誰かに任せる家事代行を選択することも立派な子育てです。「家族の中だけで、ひとりで、頑張らない」が、子育てを少しだけ軽やかにしてくれる。家事代行は、そのためのひとつの入り口なのかもしれません。
カフリネ代表・社会福祉士・家政士
麻生 早織
■カフリネ
ホームページ:https://cafurine.com/
公式note: https://note.com/cafurine
社会福祉学部を卒業後、児童指導員として児童養護施設に勤務。児童養護施設にて、子どもたちへの生活支援をはじめ、心身の発達支援や専門機関との連携業務を担当する。施設職員を退職後、飲食店勤務を経て個人で家事代行サービスを開始。
・2024、2025年度「しながわ子育てメッセ」実行委員
・品川区子育て支援団体「いどばた食堂 カフネ」設立・代表
・2024年より、品川区家事支援事業所向けの研修講師として、ヤングケアラー支援に携わる(元・認定NPO法人バディチーム訪問サポーター)。
・2025年4月より大分県へ拠点を移す。一児母。
・2026年5月「カフリネ」設立
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■インタビュー・記事制作:ティーペック広報 大井美深
※当記事は、2026年6月に作成されたものです。
※当記事内のインタビューは、2026年3月に行われたものです。
※当記事は個人の体験談に基づくものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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