「傷病手当金」は、病気やけがで長期間仕事を休み、給与が受けられない場合、その間の生活費や療養にかかる費用をサポートしてくれる制度です。健康保険組合や協会けんぽ等の保険者から支給されます。支給には条件がありますので、いざというときにあわてないためにも、制度の概要を知っておきましょう。
目次
1.傷病手当金とは?
思わぬけがや病気で、仕事を休まざるを得ないことがあります。療養に時間がかかれば、有給休暇を使い果たし、欠勤・休職扱いになって給与が減額されたり、無給になってしまうことがあります。欠勤期間が長くなれば、生活も不安になります。このような不安を軽減し、働く人と家族の生活を支援するために、健康保険から支給されるのが「傷病手当金」です。働けない期間の生活費のほか、療養にかかる費用を経済的にサポートすることを目的としています。
具体的にどれほどの金額を支給してもらえるのかは、健康保険法と厚生労働省令等の規定に基づいて運用されますが、厚生労働省の「医療保険に関する基礎資料~令和3年度の医療費等の状況~」(※)を見ると、令和3年度の支給件数は、協会けんぽが約159万件、組合健保が約90万件、共済組合が約13万件で、その他船員保険等を加えると合計で約264万件となっています。また、支給金額は合計で約5,029億円、1件当たりの金額は約19万円となっています。
2.保険者(健康保険組合や協会けんぽ等)から支給
傷病手当金は健康保険法で定められている制度なので、保険者(健康保険組合や協会けんぽ等)から支給されます。
支給を受けるには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
(1)業務外の病気・けがで療養中であること
労災保険の給付対象となる「業務上」の病気やけがの場合は支給されません。「業務外」の理由によるものであれば、自宅療養や自費で診療を受けていてもかまいません。健康保険で診療を受けられない美容整形などでは支給されません。
(2)療養のために仕事に就くことができない(労務不能)
今までやっていた仕事に就けないことが条件です。今までより軽い仕事に就いたり、医師の指示で半日出勤し、今までと同じ仕事をするような場合は、労務不能とは認められません。療養のために仕事に就けない(労務不能)という判断は、原則、医師が行います。入院している場合だけでなく、自宅で療養しながら医師の診察を受けている場合も含みます。
(3)療養のために連続して4日以上仕事を休んでいる
療養のために仕事を休んだ日が連続して3日間(待期)あったうえで、4日以上休んだ場合に、4日目から支給が開始されます。
休業開始から3日間は、支給の対象外となります。待期の3日間の中に有給休暇や公休日が含まれていてもかまいません。たとえば土日を含めて3日間休み、4日目から休業する場合はその日から支給対象となります。
(4)給与を受けられない
給与を受けられない場合や給与を受けていても傷病手当金の額より少ないときは、差額が支給されます。
3.最長で1年6ヵ月支給
傷病手当金が支給されるのは、支給開始日から通算して1年6ヵ月間の範囲内で、医師が労務不能と認めた期間です。
支給される額は、支給月を含む直近の継続した12ヵ月の標準報酬月額※の平均額を30日で割った「基準となる日額」を基に計算します。
基準となる日額の3分の2が欠勤1日当たりの支給額となります。
■支給金額(1日あたり)
支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3
※支給開始日とは、一番初めに傷病手当金が支給された日のこと。
※標準報酬月額とは、社会保険料を計算するための基準となる金額で、従業員が事業主から受け取る毎月の給料や手当などの報酬を一定の範囲ごとに区分したもの。
4.給付を受けるためには申請書、事業主の証明書が必要
傷病手当金の給付を受けるためには、「傷病手当金支給申請書」の提出が必要です。
その際、労務不要と判断する医師の意見と、勤務状況が分かる事業主の証明が必要となります。
また、申請期限は労務不能であった日ごとにその翌日から2年間となります。
なお、傷病手当金は、業務以外での病気やけがで働けないときに支給されるものです。業務上や通勤途中の病気やけがは労災保険の支給対象となるため、傷病手当金は支給されません。
傷病手当金は働く人をサポートするための制度です。上手に利用して病気やけがの治療に役立て、元気に働ける体を取り戻しましょう。
原稿・社会保険研究所Copyright
参考
- 厚生労働省「医療保険に関する基礎資料~令和3年度の医療費等の状況~」
https://www.mhlw.go.jp/content/kiso_r03.pdf - 『社会保険の事務手続き 令和6年度版』社会保険研究所、2024年
※当記事は、2024年8月に作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
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