• トップ
  • 記事一覧
  • 特集
  • 【国立がん研究センター 井上真奈美先生に聞いた!】がんを遠ざける生活習慣 「日本人のためのがん予防法(5+1)」 -2-

特集

【国立がん研究センター 井上真奈美先生に聞いた!】がんを遠ざける生活習慣 「日本人のためのがん予防法(5+1)」 -2-

公開日:2024.07.30

前回の、がんを遠ざける生活習慣 「日本人のためのがん予防法(5+1)」 -1- の記事では、生活習慣の改善でがんになるリスクを下げられるということ、そして国立がん研究センターを中心にした研究グループが提示する「日本人のためのがん予防法(5+1)」の一部、「禁煙」「節酒」について紹介しました。引き続き、「日本人のためのがん予防法(5+1)」の策定に携わった国立がん研究センター がん対策研究所 副所長の井上真奈美先生に、元になっている研究についての解説や具体的な実践方法について、お話をうかがいました。

日本人のためのがん予防法(5+1)
※国立がん研究センター がん対策研究所を中心にした研究グループが公開している、日本人を対象とした研究結果をもとにした「日本人のためのがん予防法(5+1)」。

※国立がん研究センター がん対策研究所とは
世界を変える新たな科学的知見を創り、社会のニーズに応え、科学的知見を結集してがん対策につなげ、すべての人に確かな情報を届け、がん対策の実装とその支援を行うことを目指した組織です。国民ががんを予防できる、そしてがん患者が安心してがんと共生できる社会の実現に取り組んでいます。

日本人のためのがん予防法(5+1)-食生活-

塩蔵食品・食塩の摂取は最小限に

高塩分食品のリスク

漬物やたらこ、塩辛、魚の干物などの塩分濃度の高い食べ物をとる人は、高血圧や脳卒中といった循環器疾患のリスクが高いことは知られていますが、がんの中では、胃がんのリスクが高いという研究結果が報告されています。

「『健康のために塩分を減らす』という情報が周知されてきたこともあり、日本人の塩分摂取量は少しずつ減ってきているのですが、1日あたり10gと世界の国々と比べて大変多い状況です。厚生労働省が推奨している食塩摂取量は現在、男性7.5g、女性6.5gとなっています。WHOの推奨が5〜6gと比べるとかなり基準が異なるのですが、これは『急に基準を下げても無理だろう』という配慮からであって、できれば5〜6gにしてもらうのが理想です」(井上先生)

野菜・果物不足にならない

野菜・果物不足のリスク

野菜と果物をとることで、食道がんのリスクが低くなることがわかっています。また胃がんと肺がんも、リスクが低くなる可能性はあります。厚生労働省が作成した1日あたりの摂取量の目安は、野菜が350g、果物が50gの合計400gです。

「今は、野菜よりも果物の摂取が足りない傾向ですので、果物も忘れずにとるようにしてください」(井上先生)

飲食物を熱い状態で食べない

熱い飲み物・食べ物リスク

飲み物や食べ物を熱いままとると、食道がんのリスクが高くなるという報告が多くあります。

「食道がんの死亡率を日本の地域別で比較したところ、目立って高い地域がありました。よくよく生活習慣を調べたところ、熱いものを多くとる生活習慣がありました。熱いものを飲んだり食べたりして口の中を火傷するくらいのことはよくあることで、問題はないのですが、それが何十年も続くと食道がんのリスクが高まります。熱いものは冷ましてからとるようにしましょう」(井上先生)

加工肉と赤肉の、がんになるリスクについて

特に海外からの発信で多く見かけるのが「加工肉や赤肉(牛・豚・羊、鶏肉は含まない)が健康に影響を及ぼす」という情報です。日本人にとって、加工肉・赤肉を食べることは、がんのリスクを高めるのでしょうか。

「海外のリスク評価では、加工肉・赤肉は大腸がんのリスクを高めるということでしたが、日本人を対象にして評価をしてみたところ、『リスクを高める可能性を判断するには、科学的根拠は不十分』という結果になりました。

実際に、欧米の研究では赤肉はがん死亡のリスクを高めるという結果が出ていますが、同じような研究をアジアでやると、むしろリスクが下がるという結果が出ています。その理由は、欧米とアジアとの、赤肉の摂取量の差ではないかと思われます。国際的には『赤肉は1週間に500g未満』が推奨ですが、これは1日に直すと70gで、生肉に換算すると90g。この量を毎日食べる人は日本人では少ないと思います。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、日本人は赤肉から加工肉まで含めての摂取量は1日あたり66gですから、明らかに量が違うことがわかります。

つまり、欧米のように違う食生活をしている人たちを対象とした研究結果をそのまま当てはめることはできませんし、過剰に摂取を控えてしまうことで、たんぱく質などの栄養不足などから、異なるリスクが高まる可能性があります。

ただし、日本人を対象とした研究でも『赤肉などを過剰に摂取すると、がんのリスクが上がる』という結果が出ているので、『日本人だから大丈夫』ということではなく、『あまり食べていない人は気をつけなくても大丈夫』と理解してください」(井上先生)

日本人のためのがん予防法(5+1)-適正体重-

太りすぎず、やせすぎず。適正な範囲内で

やせすぎ・肥満のリスク

「肥満が、がんのリスクを高める」ということを知っている人は多いかもしれませんが、がん死亡、そして全ての原因による死亡のリスクは、やせすぎでも太りすぎでも高くなります。

女性においては、特に閉経後の肥満が乳がんのリスクになることが報告されています。閉経後はホルモンバランスが変わって太りやすくなるので、注意が必要です。

「世界と比較すると、日本をはじめとする東アジアの国は肥満が少ないことがわかっています。肥満については、BMIが30を超えないと明らかなリスクの増加は認められないのですが、日本人において20歳以上でBMIが30以上である割合は5%にすぎません。一方、日本の中高年においては『BMI21未満のやせが、がんのリスクを増加させる』ことがわかっていますが、その割合は20%以上となっていて、肥満よりもむしろ『やせ対策』をする方が、がん予防の効果が大きい可能性が出てきています。

日本人の平均BMIは、男性は少しずつ上がっていますが、女性が少しずつ下がっています。それはアフリカの飢餓状態にある国と日本でしか見られない状況です。太りすぎずやせすぎず、BMIは21〜25の間の範囲になるように、体を管理しましょう」(井上先生)

日本人のためのがん予防法(5+1)-身体活動-

日常生活を活動的に

身体活動で減少するリスク

「身体活動」とは体を動かすことです。仕事や運動などにより体を動かしている人は、大腸がん、乳がんをはじめ、多くのがんのリスクを下げることがわかっています。

厚生労働省が出している「身体活動・運動ガイド2023」では、以下のような身体活動の目安が示されています

18〜64歳……歩行またはそれと同等の強度の身体活動を1日60分
65歳以上……強弱を問わず、身体活動を1日40分

「余暇運動の頻度の乳がんの関連についての研究で、運動頻度が多いほど乳がんになりにくく、BMIが25以上の人は特に予防効果が高いという結果が出ました。

まずは動くことが大切なので、中身はどんなものでもいいと思います。快適だと思うレベルの運動でいいので、現状より少しでも動くよう心がけてもらえれば、がんのリスク低下につながります」(井上先生)

日本人のためのがん予防法(5+1)-感染-

日本人のがんの原因として女性では最も多く、男性でも2番目に多いのが「感染」です。

「いずれも感染したら必ずがんになるわけではなく、それぞれの状況に応じて適切な対応をすることで、がんを防ぐことにつながります」(井上先生)

ピロリ菌と胃がん 機会があればピロリ菌感染検査を

ピロリ菌リスク

ピロリ菌(正式名称:ヘリコバクター・ピロリ)は現在80歳くらいの人は7〜8割の人が感染していますが、後の世代では感染対策や衛生環境の改善が進み、感染率は大きく低下しています。

機会があれば、ピロリ菌感染検査を受けましょう。感染していた場合は、定期的に胃がん検診を受けることが大切です。除菌によって胃がんのリスクは確実に低下しますが、副作用もあるので、主治医に相談してから決めることをおすすめします。

肝炎ウイルスと肝がん 肝炎ウイルス感染検査と適切な措置を

肝炎ウイルスリスク

まずは肝炎ウイルスに感染しているかどうかを知ることをおすすめします。保健所や医療機関で一度、検査を受けて、感染している場合は専門医に相談しましょう。自治体によっては治療費の補助もありますので、積極的に治療を受けてください。

ヒトパピローマウイルス(HPV)と子宮頸がん  HPVワクチンの接種と、定期的な子宮頸がん検診を

ヒトパピローマウイルスリスク

HPVワクチンについては、「ワクチン接種をきっかけに重篤な副作用が起きた」という報告があったことから、自治体が接種をすすめる通知を個別に送る「積極的勧奨」を、2013年6月から差し控えていました。2022年4月から「積極的勧奨」を再開。定期接種に該当する年齢(小学6年から高校1年)の女子はワクチン接種をするとともに、子宮頸がん検診を定期的に受けることが、子宮頸がんの予防及び早期治療のために有効です。

※積極的勧奨再開までの約8年間のうちに対象外になってしまった人には、改めて公費で接種を提供するキャッチアップ接種を実施。対象者は1997~2005年度生まれの9学年で、接種期間は2025年3月まで。 

「HPVワクチンによって子宮頸がんのリスクが下がることはわかっています。ワクチンの副作用はゼロではないですが、それでも子宮頸がんになって、子供を産めなくなったり、若くして命を落としたりする女性が減るならワクチンを打ちましょうというのが、世界の流れです。

日本のようなことが起きず、ずっとHPVワクチンの接種をすすめてきた国の中には、子宮頸がんの撲滅が近いところもあります。また女性だけの理由でヒトパピローマウイルスの感染が起こるわけでもないので、性別を問わず接種をすすめている国もあります。中咽頭がんなど、ヒトパピローマウイルスと関連するがんは複数あり、男性も無縁ではないので、今後は日本でも議論が広がっていくと思われます」(井上先生)

まとめ

日本人のがんの予防に大切な「禁煙」「節酒」「食生活」「適正体重」「身体活動」の5つの生活習慣に「感染」を加えた「日本人のためのがん予防法(5+1)」。すぐにでも生活に取り入れられそうな内容が数多くありました。みなさんも、できるところから実践してみてください。

※当記事は、2024年7月に作成されたものです。

※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

国立がん研究センター がん対策研究所

井上真奈美先生

1990年筑波大学医学専門学群卒。1995年博士(医学)。1996年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程修了。愛知県がんセンター研究員、国立がんセンター室長、東京大学特任教授、国立がん研究センター予防研究部長等を経て、2023年4月より国立がん研究センター がん対策研究所副所長。専門分野:がんの疫学と予防。

メッセージを送る

いただいたコメントはつながるティーペック事務局に送信されます。 サイトに公開はされません。 コメントには返信できませんのでご了承ください。

他にもこんな記事があります。

気になるワードで記事を探す

おすすめタグで探す