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【国立がん研究センター 井上真奈美先生に聞いた!】がんを遠ざける生活習慣 「日本人のためのがん予防法(5+1)」 -1-

公開日:2024.07.30

今や日本人の9人に1人がかかるという「がん」。がんには様々な要因がありますが、中でも、生活習慣や環境とは深い関わりがあります。つまり裏を返せば、生活習慣を改善することでがん予防に取り組むことができるのです。では具体的に、どういった生活習慣が「がんになるリスク」に影響を及ぼすのでしょう。「日本人のためのがん予防法(5+1)」の策定に携わった、国立がん研究センター がん対策研究所 副所長の井上真奈美先生に「具体的にどのように実践すればいいのか」など、お話をうかがいました。

日本人のためのがん予防法(5+1)

※国立がん研究センター がん対策研究所を中心にした研究グループでは、日本人を対象とした研究結果をもとにした「日本人のためのがん予防法(5+1)」を公開しています。日本人のがんの予防に大切な「禁煙」「節酒」「食生活」「適正体重」「身体活動」の5つの生活習慣に「感染」を加えたもので、日常生活に取り入れて実践しやすい内容になっています。

日本人のためのがん予防法(5+1)

※国立がん研究センター がん対策研究所とは
世界を変える新たな科学的知見を創り、社会のニーズに応え、科学的知見を結集してがん対策につなげ、すべての人に確かな情報を届け、がん対策の実装とその支援を行うことを目指した組織です。国民ががんを予防できる、そしてがん患者が安心してがんと共生できる社会の実現に取り組んでいます。

どのくらいのがんが予防できる?

「日本人のためのがん予防法(5+1)」の詳しい紹介に入る前に、私たちが、自分たちの努力によって、がんをどのくらい予防できるかを見ていきます。

下のグラフは日本人のがんを引き起こす要因のうち、予防可能なものをまとめたもので、日本人の男性のがんの43.4%、女性のがんの25.3%は予防できる要因によって起こっていることがわかります。

男性の一番の要因は「能動喫煙」(23.6%)、続いて「感染」(18.1%)、「飲酒」(8.3%)。女性は一番が「感染」(14.7%)、続いて「能動喫煙」(4.0%)、飲酒(3.5%)となっていて、「喫煙」と「感染」が2大要因となっています。

そして「日本人のためのがん予防法(5+1)」に提示されている5つの生活習慣に気をつけている人と、そうでない人とを10年間という年月で調べた結果、0〜1個のみ実践していた人と比べ、5つ全てを実践した人は、男性で43%、女性で37%リスクが低かったことがわかっています。

「1つ1つを取り上げるとたいしたこと無いように思うかもしれませんが、将来がんになるリスクを大きく減らせることがわかっています。ぜひ生活に取り入れてみてください」(井上先生)

日本人のためのがん予防法(5+1)-禁煙-

タバコは吸わない

タバコのリスク

タバコというと、肺がんとの関連がよく知られていますが、その煙には約70種類発がん物質が含まれていて、さまざまながんのリスクを確実に高めます。煙が直接触れる部分のがんである、喉頭がんや舌がんといった頭頸部がん、そして食道がんに関しては、肺がんよりもよりリスクが高いという結果になっています。

「喫煙と健康」喫煙の健康影響に関する検討会報告書 平成28年8月 喫煙の健康影響に関する検討会スライド
引用元:「喫煙と健康」喫煙の健康影響に関する検討会報告書 平成28年8月 喫煙の健康影響に関する検討会編 スライド集「厚生労働省e-ヘルスネット」

そして直接煙が触れない部分でも、子宮頸がん、膀胱がんなど、喫煙でリスクが高まるがんは多くあり、全身に悪い影響を与えることがわかっています。

「また、喫煙と飲酒が重なるとがんになるリスクが高まるという研究結果があります。喫煙をしていない人がお酒を飲んでも量によってそこまでがんにかかる割合は変わらないのですが、喫煙者の場合、飲酒量が増えるとがんの罹患率が大きく上がっていきます」(井上先生)

他人のタバコの煙を避ける

タバコのリスク
「喫煙と健康」喫煙の健康影響に関する検討会報告書 平成28年8月 喫煙の健康影響に関する検討会スライド
引用元:「喫煙と健康」喫煙の健康影響に関する検討会報告書 平成28年8月 喫煙の健康影響に関する検討会編 スライド集「厚生労働省e-ヘルスネット」

タバコは喫煙者本人だけではなく、周囲の人の健康も損ねてしまいます。タバコから立ち昇る煙や喫煙者が吐き出す煙にも、ニコチンやタールはもちろん多くの発がん物質が含まれているからです。本人は喫煙しなくても、身の回りのタバコの煙を吸わされてしまうことを受動喫煙と言います。

「喫煙していない女性を13年間追跡した研究では、夫がタバコを吸わない人と比べて、1日20本以上吸っている夫がいると、肺腺がんになるリスクが2.2倍に上がります。また日本人を対象とした研究ではないですが、受動喫煙によって、口腔がんや鼻腔がんのリスクが上がるという報告もあります」(井上先生)

肺がん死亡率は、禁煙時期が早い人ほど下がる

本人や周囲の人ががんにかかるリスクを考えれば、禁煙することが一番ですが、「今から禁煙しても遅いから」と決断を後回しにしている喫煙者もいるかもしれません。しかし、決してそのようなことはなく、1日でも早く禁煙した方がいいと井上先生は言います。

「喫煙者でも早くやめればやめるほど、肺がん死亡率が減るという研究もあります。60代で禁煙をした人が70代になった時、そのまま喫煙している人と比べ、肺がんによる死亡率が40%減り、80代になった時は、そのまま喫煙している人と比べて57%減ったという結果が出ています。さらには受動喫煙によるリスクにももちろん影響しますので、早めの禁煙をおすすめします」(井上先生)

新型タバコも、紙巻きタバコ同様にがんのリスクを高める

最近、よく目にするようになった新型タバコ。「紙巻きタバコほど煙が出ないから体に悪くない」と言って、新型タバコに切り替えている人を見かけるようになりました。

新型タバコには、加熱式タバコと電子タバコがあります。「加熱式タバコ」は、タバコ葉に火をつけるのではなく、電気で加熱して出てくる煙を吸うものです。この煙の中には、ニコチンや発がん性物質などの有害な物質が含まれています。「電子タバコ」は、香りがついた溶液を加熱して、発がん性物質を含んだエアロゾルを吸うものです。では実際のところ、がんにかかるリスクなど、健康への影響はどうなのでしょう。

「加熱式タバコは、紙巻きタバコと比べて発生する煙は少ないですが、ニコチンやホルムアルデヒトなどの有害物質は紙巻きタバコと同量含まれています。また、受動喫煙もあります。電子タバコについては、現在、日本ではニコチンが含まれているものは販売されていませんが、発がん性物質は含まれています。がんになるリスクについては、販売が始まってそれほど時間が経っていないため、明らかにはなっていませんが、新型タバコの影響を、1日3〜5本程度のごく少量の喫煙と同程度と仮定すると、タバコ同様にがんのリスクは上がってきます」(井上先生)

日本人のためのがん予防法(5+1)-節酒-

節度ある飲酒を。飲めない人は無理に飲まない

飲酒のリスク

大量の飲酒は、肝がんのリスクを上げることはよく知られていますが、大腸がん、食道がんへのリスクも確実に増加します。

「1日あたりのアルコール摂取量が、純エタノール換算で約23g未満の人に比べて、46g以上で40%程度、69g以上で60%程度がんのリスクが高くなることが日本人男性を対象とした研究でわかりました。女性は男性ほどはっきりしないものの、より飲酒の影響を受けやすく、リスクが高くなるという報告があります」(井上先生)

がんのリスクが高くなる(純エタノール換算で約23g)1日あたりの飲酒量とは
日本酒……1合 180ml
ビール……大瓶一本 633ml
焼酎・泡盛……0.6合 100ml
ウイスキー・ブランデー……ダブル1杯 60ml
ワイン……ワイングラス2杯 240ml

「上記のように『日本人のためのがん予防法(5+1)』では、エビデンスに基づいた1日あたりの飲酒量を示し、適量を超えない飲酒を推奨しています。
なお、2024年2月に厚生労働省から発表された「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、たとえ少量でも発症リスクが上がる疾病もあると記載がされており、WHOからも「アルコールに安全な量はない」という見解が出されているため、今後はこうした『適量』は表記しなくなる可能性があります。『少量でも飲酒自体のリスクがあり、適量はない』というのが、WHOをはじめとする世界的な流れです」(井上先生)

そして日本人は欧米人に比べ、アルコールによるがんのリスクが高まりやすいという研究もあります。

「同じ量を飲んでも、日本人の方が大腸がんになるリスクが高いのは、アルコールを分解する酵素の働きが弱い人が、欧米人より日本人に多いからです」(井上先生)

この酵素は「ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素 )」といい、アルコールの分解の途中で生成される有害なアセトアルデヒドを無害な物質に分解するもので、このALDH2の働きが「お酒の強い・弱い」を決めます。

「ALDH2の働きが弱いと、有害なアセトアルデヒドの貯留時間が長くなります。それが何十年も繰り返すと大腸がんになりやすいと言われています」(井上先生)

そして食道がんについての研究で、ALDH2の働きが弱い人が大量飲酒をすると、飲まない場合に比べて食道がんになるリスクが49.6倍になることがわかっています。ALDH2の働きが強い人のリスクが7.84倍であることに比べると、かなりの高リスクです。

「すぐ真っ赤になってしまうとか、気持ち悪くなってしまうというくらい、お酒が弱くて飲めない人はいいのですが、持っている酵素の状態で、分解できないのに飲めてしまうという人が中にはいます。『トレーニングして飲めるようになった』と言う人はそのタイプかもしれません。そういう人たちが飲むと特にがんになるリスクが上がるので注意が必要です」(井上先生)

この記事では、[日本人のためのがん予防法(5+1)]のうち、「禁煙」と「節酒」について詳しく紹介しました。残りの「食生活」「適正体重」「身体活動」「感染」については「【国立がん研究センター 井上真奈美先生に聞いた!】がんを遠ざける生活習慣 -2-」で解説します。

※当記事は、2024年7月に作成されたものです。

※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。

国立がん研究センターがん対策研究所

井上真奈美先生

1990年筑波大学医学専門学群卒。1995年博士(医学)。1996年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程修了。愛知県がんセンター研究員、国立がんセンター室長、東京大学特任教授、国立がん研究センター予防研究部長等を経て、2023年4月より国立がん研究センター がん対策研究所副所長。専門分野:がんの疫学と予防。

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